王者カブスに何が起きているのか
2017.6.2 12:34 Friday
「ヤギの呪い」を解き、108年ぶりのワールドシリーズ制覇を成し遂げた昨季のカブス。今季も開幕前の評価は高く、「カブス帝国を築くのではないか」との声すらあったほどだ。しかし、その王者が苦しんでいる。6月2日の時点で25勝27敗の借金2(ナ・リーグ中部地区3位)。カブスにいったい何が起きているのか。
問題点1:先発投手陣の不振
昨季のカブス先発投手陣は162試合のうち152試合をジョン・レスター(19勝5敗、防御率2.44)、ジェイク・アリエタ(18勝8敗、防御率3.10)、カイル・ヘンドリックス(16勝8敗、防御率2.13)、ジョン・ラッキー(11勝8敗、防御率3.35)、ジェイソン・ハメル(15勝10敗、防御率3.83)の5人で回し、両リーグベストの先発防御率2.96を記録していた。今季はそこからハメルが抜け(ロイヤルズへ移籍)、5番手候補としてドジャースから「故障さえなければ実力者」のブレット・アンダーソンが加入。しかし、アンダーソンは6先発で防御率8.18と期待を裏切り、5月7日には腰痛で故障者リスト入りしてしまった。その他の先発投手も軒並み精彩を欠いており、防御率2点台どころか3点台前半の投手すらいない状況。先発防御率は両リーグ22位の4.64まで落ち込んでしまっている。
問題点2:カイル・シュワーバーの大不振
2014年ドラフト全体4位指名で入団し、翌2015年に早くもメジャー昇格を果たして69試合で16本塁打、OPS.842を記録したシュワーバー。昨季は開幕直後に左膝前十字靭帯断裂の重傷を負って長期離脱したものの、ワールドシリーズで打棒健在をアピールして今季は「長打力と出塁能力を兼ね備えた1番打者」として大きな期待を背負っていた。ところが、開幕からなかなか調子が上がらず、4月は打率.204、3本塁打、OPS.677と低調な成績。5月は本塁打こそ5本放ったものの、打率.120、OPS.569とさらに成績は悪化し、マイナー降格を提案する声すら出始めている状況だ。「ベン・ゾブリストをレフトに固定する」、「クリス・ブライアントのレフトでの出場機会を増やす」など、チーム内には様々なオプションが存在するだけに、シュワーバーへの処遇に注目が集まっている。
問題点3:守備力の低下
昨季のカブスは両リーグ断トツとなるDRS(守備防御点)+82を記録。強固なディフェンスが強力投手陣をバックから支えていた。今季は現時点で両リーグ6位タイのDRS+10にとどまっており、ここでもシュワーバー(レフトでDRS-5)が大きな穴となっている。同じ外野では主にジョン・ジェイらが起用されているセンターのDRSも悪化しており、ライトでメジャー屈指の守備力を発揮しているジェイソン・ヘイワードをセンターで起用しなければならないという悪循環にもつながっている。ヘイワードをライトに固定できる状況がベストではあるものの、ベテランのゾブリストや三塁が本職のブライアントに外野の両翼はまだしも、常時センターを任せるわけにもいかず、ジョー・マドン監督は日々頭を悩ませていることだろう。
問題点4:リーグワーストの得点圏打率.209
昨季はリーグ2位の808得点を叩き出したカブス打線だが、今季は得点力がリーグ平均レベルまで落ちている(リーグ8位の240得点)。チーム打率がリーグ13位の.235と低迷していることが主な原因であることは間違いないが、リーグ2位の208四球を選ぶなど決してチャンスの数が少ないわけではなく、「あと一本」がなかなか出ないことが得点力の低下に繋がっていることも否めない。ただし、昨季の得点圏打率も両リーグ21位の.252にすぎず、得点圏打率の低迷をチーム低迷の要因に挙げるのはやや誇張しすぎかもしれない。
問題点5:頼れる1番打者の不在
昨季はデクスター・ファウラーが不動の1番打者として活躍していたため、チーム全体として1番打者は出塁率.381、OPS.815の好成績を残していた。ところが、今季は新たな1番打者として期待されていたシュワーバーが大不振に喘ぎ、ここ最近はゾブリストにその座を譲ることが多くなっている。シュワーバーの大不振の影響もあり、チーム全体の1番打者の成績は打率.210、出塁率.315、OPS.721と昨季から大幅に悪化。1番打者の不振がチームの得点力低下に繋がっていることは間違いないだろう。今後はゾブリスト以外にもヘイワード、ジェイ、ハビアー・バイエズ、新人イアン・ハップなど様々なオプションを試していくことになりそうだ。
上記以外にも主砲アンソニー・リゾーや昨季95打点を叩き出したアディソン・ラッセルらが打率.230にすら満たない不振に苦しむなど、チーム全体として元気がない状態が続いている。しかし、幸運なことにナ・リーグ中部地区では低レベルなペナントレースが続いており、経験豊富なマドン監督が率いる才能豊かなチームは、実績のある主力選手の復調や余剰戦力をコマにした戦力補強によって、遅かれ早かれ地区優勝争いに加わってくるのではないだろうか。