コミッショナーが後払いに懸念 ドジャースは10億ドル超の繰延残す
2024.12.17 19:59 Tuesday
MLBのコミッショナーであるロブ・マンフレッド氏がWEBメディア「クエスチョンズ・フォー・キャンサー・リサーチ」へのインタビューで、今オフに話題となっている給与の繰り延べ払いに対して懸念を示した。米メディア「ジ・アスレチック」のエバン・ドレリッチ記者が報じている。
マンフレッドは球団が給与の支払いを延期する際に行き過ぎてしまう可能性があると警告した。昨オフの大谷翔平との10年7億ドルの契約に引き続き、ワールドチャンピオンのドジャースは多額の後払いを含む大型契約を今オフも連発している。ドジャースは2046年まで10億ドル以上の繰り延べ分を残しており、この手法について球界では賛否が巻き起こっている。
マンフレッドは「歴史的にアリゾナというフランチャイズが、過度の繰り延べの結果、財政難に陥ったことがある」と、行き過ぎた後払い契約が抱える財政リスクを指摘。ダイヤモンドバックスは2004年にオーナーシップが変わった際、前オーナーが結んだ後払い契約の繰り延べ分が2億5400万ドル残っていたとされる。
ただ、現行の労使協定では、球団は後払いにした分のお金を全額自由に使えるわけではない。繰り延べ分がいつ支払われるかにかかわらず、球団はシーズン終了から1年半以内に年俸の現在価値(大谷の場合は約4600万ドル)を確保しておかなければならないのだ。これで選手に支払われる年俸は確実に確保されることになる。
もっともMLBの中で最も多くの収益を上げているチームのひとつであるドジャースにとっては、財政リスクはあまり関係ないかもしれない。ただ、マンフレッドは「球団を売却するとなると、球団の将来に大きな担保がついたまま売却することになるので、オーナー側の問題がすべて解決するわけではない」と、このような大幅な後払いに追従する球団が出た場合のリスクを指摘している。
そして、このドジャースによる後払いが賛否を巻き起こしている理由には、戦力均衡の観点も絡んでいる。年俸に繰り延べ分が含まれない場合、贅沢税の年俸は単純に「契約総額÷契約年数」の数値で計算される。しかし、繰り延べ分が含まれる場合は、現在価値の値が贅沢税の計算で用いられることになる。たとえば、大谷の場合「契約総額÷契約年数」は7000万ドルだが、現在価値では4600万ドルなので、贅沢税の計算では2400万ドル少ない。つまり、ドジャースは後払いすることによって、贅沢税の計算において節約が可能になっているのだ。
また、球団が後払いによって得るアドバンテージはそれだけではない。先ほど球団は繰り延べ分を確保しておかなければならないため、そのお金を自由に使えるわけではないと前述したが、その資金を保有する方法には選択肢がある。球団は繰り延べ分の資金を投資に回すことも可能で、その投資から利益を受けることもできるのだ。大物代理人のスコット・ボラス氏は、後払いはオーナーにとってチャンスとなるかとの質問に対して「もちろん、疑問の余地はない」「オーナーは資本を使ってさらなる資本を得る機会を得る」とコメントしている。後払い契約を連発できるだけ財政基盤が盤石な球団と、そうではない球団の間で格差が広がる懸念は、現実のものとなりつつある。
後払いに関するルールは労使協定で定められており、テコ入れが入るとすれば早くても現行の労使協定が失効して新協定に切り替わる2027年からだ。マンフレッドとオーナー陣は、前回の労使交渉では選手会側に対して後払い制度の撤廃を提案したが、選手会がこれを拒否したという。マンフレッドとオーナー陣が、これまで以上に積極的に後払い制度の変更を推し進めるつもりなのかどうかは不明だという。