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新球場計画中止のレイズ 切れ者オーナーも八方塞がりか

2025.3.16 09:57 Sunday

 14日、レイズはセント・ピーターズバーグ地域における新球場計画を中止することを発表した。長年、新球場を望んでいたレイズにとって悲願のこの計画は、総工費13億ドルが見込まれ、周辺コミュニティの再開発を含む一大プロジェクトだった。しかし、昨年10月にフロリダ州を襲ったハリケーン・ヘレンとハリケーン・ミルトンの影響で資金調達のプロセスが遅延。コストは増加し、レイズ球団側とセント・ピーターズバーグ市・ピネラス郡側の関係が悪化していた。さらに10日にはコミッショナーと複数の球団オーナーが、レイズのオーナーであるスチュアート・スターンバーグ氏に球団の売却を迫っていることも報じられた。売却か、それとも新たな新球場計画を立てるのか、レイズは窮状に陥っている。「タンパベイ・タイムズ」「ジ・アスレチック」などが伝えている。

 レイズは14日、球団の公式Xにスターンバーグ氏の声明を発表。同氏は「10月から始まった誰も予想できなかった一連の出来事が、この難しい決断につながった」と、ハリケーンという天災に見舞われた影響の甚大さを示唆した。

 レイズ側がセント・ピーターズバーグ市における新球場計画を断念した理由は、球団の主張によれば「コストの増加」である。ハリケーンの影響でピネラス郡議会は、10月に行うはずだったスタジアム建設費用の負担分を賄うための債券の採決を遅らせた。球団はその投票が延期されたことなどの要因によって、コストが2~12%増額したと主張している(超過分は全てレイズが負担する)。新球場計画の決裂について、レイズの球団幹部と市・郡の政治家は互いに責め合い、主張は食い違うばかりだ。ここからも計画破綻の大きな要因は単なるコストの増加以上に、球団と自治体側の関係悪化にあったことが見て取れる。

 セント・ピーターズバーグ市長のケン・ウェルチ氏も「私はこのオーナーグループと協力する気はない」と述べている。ただ、一方で新しいオーナーグループとであれば、交渉の余地があることを示している。同市長は新球場計画が無くなってからも、同時に予定されていた再開発を進めていくことを発表した。さらに「当市の野球の将来については、今後数か月以内に、契約とコミュニティの優先事項を尊重する姿勢を示す新しいオーナーが現れれば、セントピートに野球を残すための提携を検討する」とコメント。今後数ヶ月以内にオーナーが新しくなれば再交渉に応じることを示唆した。

 MLBが将来的にタンパベイという市場を失うリスク。それを避けたいのは、MLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏だ。MLB機構はレイズの新球場計画中止が発表されるや否や「タンパベイ地域における球団の将来を確保するために、引き続き選出公職者、コミュニティリーダー、レイズ役員と協力していく」と声明を発表。タンパベイ地域にレイズを残すことにこだわる姿勢を見せた。

 さらに10日には、マンフレッド氏と複数の球団オーナーが、レイズのスターンバーグ・オーナーに球団の売却を迫っていることが伝えられた。さらに「ジ・アスレチック」によれば、コミッショナーとオーナー側は、レイズが他の都市に移転することで、その都市にエクスパンション・チーム(新球団)が誕生する可能性が消滅することを好ましく思っていないようだ。コミッショナーとオーナー側は、タンパベイの市場はまだ存続可能と考えており、レイズに無為に新たな市場の可能性を減らしてほしくないのかもしれない。

 他球団のオーナーが望んでいない以上、レイズの移転の可能性は低い。結局のところ、移転の承認は全球団のオーナーの投票によって可決される必要がある。オーナーは移転に否定的であれば、投票によってそれを阻止できる。

 MLB全体を動かす立場にあるコミッショナーのマンフレッド氏はともかく、他球団のオーナーからも球団売却を迫られている理由は何なのだろうか。

 それは、レイズが収益分配を受け取っているためだ。小さい市場に本拠地を置き、他球団にも増して収益が少ないレイズは、収益分配制度で年間6000万ドル程度を受け取っている。そのレイズが収益改善に繋がる新球場計画について手をこまねく様は、収益を分配している立場のその他大勢の球団からすれば面白いことではないだろう。実際、同じように収益分配対象のアスレチックスは、2024年1月までに新球場計画の合意に至れなければ収益分配の対象から外れるというペナルティの取り決めを行っていた。アスレチックスはそこで暗礁に乗り上げていたオークランドとの新球場計画を打ち切り、ラスベガス移転へと急速に舵を切り、収益分配の恩恵に預かり続けることに成功した。

 これから考えられる手段は、修復が見込まれるトロピカーナ・フィールドに長く留まること、そしてタンパ市への新球場建設だ。前者は明らかにレイズにとって魅力的あるいは長期的な選択肢ではないだろう。しかし、後者の可能性についても「ジ・アスレチック」は否定的だ。タンパベイの市場に留まるためにはタンパ市への新球場建設は不可欠にも思えるが、「タンパでの建設はより高額になる可能性があり、スターンバーグ氏がオーナーである限り、チームがタンパに方向転換するのは困難になる可能性がある」。同紙はまた、代替案としてオーランドへの移転の可能性も示唆している。

 古巣のセント・ピーターズバーグ市は自身がオーナーである限り交渉の余地なし。コミッショナーとオーナー陣からは球団売却を迫られる。そして移転の可能性もない。ウォール街から球界に参入し、アンドリュー・フリードマン氏(現ドジャース編成トップ)を招き入れて分析を強化したことで、レイズは低予算でも強い球界の異端児となった。しかし、その切れ者・スターンバーグ氏は危機に瀕している。スターンバーグ氏は球団売却を今のところは否定している。

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