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ジャッジは運に恵まれている? 4割近い高打率の要因は何なのか

2025.5.31 16:00 Saturday

 史上最速のペースで60得点に到達し、両リーグトップの22本塁打を放っている大谷翔平(ドジャース)。好守の捕手でありながら、捕手として初めて5月までに20本塁打を放ったカル・ローリー(マリナーズ)。今季のMLBには歴史的な活躍を見せている選手が数多く揃っている。そのなかで、今季も打者の頂点に君臨しているのが、ヤンキースのアーロン・ジャッジだ。これまではその圧倒的パワーで知られたジャッジだが、今季は4割近い高打率を2ヶ月にわたって維持している。ジャッジはなぜこれだけの高打率を維持できているのか。その秘密に米公式サイト「MLB.com」のアナリストであるマイク・ペトリエロが迫った。

 ジャッジは今季、19本塁打、打率.392、OPS.1236と圧倒的な打撃成績をマークし、総合指標fWARではダントツの4.7という数字を残している。このfWAR4.7という数字は仮に1シーズンで出た結果だとしても優秀な部類で、昨季のMLBで4.7を超えるfWARを残した野手は、球界に20人しかいない。それを開幕2ヶ月で残してしまったジャッジは、歴史的に見てもケタ外れの存在だと分かる。

 そして今季のジャッジの特異な点は、その高打率だ。ジャッジはこれまで打率3割を超えたシーズンは2度だけ。圧倒的なパワーで長打を積み重ねてきた一方、打率に関しては取り立てて優秀な選手ではなかった。しかし、今季は打率4割に迫るハイアベレージを開幕2ヶ月にわたってキープ。この要因は何なのだろうか。

 BABIPという、インプレーの打球のみに限定した打率を示すスタッツを見てみよう。ジャッジはこのBABIPで.460という異常値を残している。これは20世紀以降で史上最高だったベーブ・ルース(1923年)の.423を遥かに上回る数値だ。今季のリーグ全体のBABIPは、およそ30年ぶりの低水準である.290に過ぎない。守備シフトの流行、投手に技術向上などによって、現代はヒットを打つのが非常に難しい時代となっている。それにもかかわらず、ジャッジはBABIPが高い。

 ただ、このBABIPというスタッツは、度々「運」の良し悪しを示す指標として言及されることがある。このBABIPは長い目で見れば、3割前後に収束する。ただ、短期的に見ればバラつきが起こり得る。一時的に高打率を残している選手も、BABIPが高ければいずれ打率も収束する可能性があり、また逆も然りといった言及をされることが多い。

 しかし、ジャッジの高打率ひいては高BABIPは、決して幸運だけのおかげではない。そもそも打者のBABIPは、かつてのイチローのような安打製造機が高く振れていたように、能力を反映しやすい面もある。そしてジャッジは通算のBABIPが.351と、そもそもBABIPが高い選手だ。

 では、ジャッジが人並み高いBABIPを残している要因は何なのだろうか。ペトリエロいわく、その要因はひとえにジャッジの圧倒的なパワーにあるという。そしてジャッジの圧倒的なパワーが引き起こした、高打率につながる3つの要因を挙げている。

 1つ目は、ジャッジはヒットゾーンが他人より広いということだ。ジャッジの圧倒的パワーを警戒し、外野手は他の打者に対する時より後ろに守っていることが明らかになっている。MLBの中堅手の平均的な守備位置は、ホームプレートから約98メートルの位置にある。一方でジャッジの場合、他のどの打者よりも深い位置で守り、その守備位置は約101メートルにある。このわずか3メートル程度の差は一見大きくないが、前方の打球の捕球確率を大きく左右する要素だ。

 2つ目は、ジャッジの打球が速すぎるあまり、内野手はそれを処理する時間が与えられていないということ。ジャッジのゴロ打球における打率は、MLBトップの.407。ジャッジの平均打球速度は球界3位の約153キロと、滅法速い。それに伴ってジャッジの打球をアウトにする難易度も非常に高く、ジャッジの打球の処理確率(Success Rate)は球界最低の53%に過ぎない。

 3つ目は、ジャッジが打者のときの相手ディフェンスの成績が悪いということ。米公式データシステム「スタットキャスト」が算出する守備指標OAA(平均と比べてどれだけアウトを奪ったか、損したか)では、ジャッジが打者の時はOAAがー7に下がる。これはほかのどの打者と比べても最低の数値だ。前述の通り、ジャッジの打球はその強烈さ故に、処理するのもひと苦労なのだ。

 ペトリエロ記者は、ジャッジの高打率及び高BABIPは決して幸運に恵まれているだけではない、と分析している。しかし、一方でジャッジが打率4割でシーズンをフィニッシュすることはない、と断言もしている。MLBでは1941年のテッド・ウィリアムス以来、4割打者は現れていない。ジャッジは打率4割への挑戦権をまだ維持しているが、それでも現実味は低いだろう。

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