マリナーズはローリーをどう発掘したのか 低評価を覆した理由
2025.10.4 12:23 Saturday
2024年にプラチナグラブ賞を受賞し、さらにシーズン60本塁打を捕手として初めて達成した選手が、なぜ2018年ドラフトの全体90位まで残っていたのだろうか。当時、フロリダ州立大学に所属していたカル・ローリーには選手としての素質に多くの疑問が投げかけられていた。幸運なことに、マリナーズにはその疑問を解消してくれる地域スカウトがいた。
ローリーは両打席でパワーを発揮していたが、ケープコッドリーグ(有望な大学生が参加するサマーリーグ)では木製バットで好成績を残せず、2年次には打撃不振に陥った。3年生になると、打率.326、出塁率.447。長打率.583、13本塁打と復活したが、守備の評価は依然として賛否両論だった。「MLBパイプライン」のドラフト候補選手ランキングでは150位にとどまり、指名後に契約できるかどうかも懸念されていた。
地域スカウトはチームの選手選びにおいて大きな役割を果たしている。2001年に現役を引退し、マリナーズでスカウトを始めたロブ・ムンマウは、2018年にはチームにとって非常に貴重な存在になっていた。
たとえば、2018年のドラフト1巡目ローガン・ギルバートの獲得にも、ムンマウは貢献した。ギルバートはドラフトイヤーが始まるときには全体5位以内で指名されると予想されていたが、春に診断未確定の単核球症に悩まされ、直球の球速が低下。他球団が指名を見送る中、ムンマウの情報で病気の懸念を払拭できていたマリナーズが全体14位で指名した。その後のギルバートの活躍は周知の通りだろう。
マリナーズは2018年のドラフトでこれまで以上にデータを活用した。従来のスカウティングに依拠しつつも、初めて様々な定量化可能な要素を考慮したモデルを導入したのだ。そして、そのモデルはローリーに低い評価を与えていた。当時スカウティング担当部門の次長だったトム・アリソンは、そのモデルがローリーをドラフト候補選手の中で全体379位にランク付けしたことを覚えている。
しかし、ムンマウはローリーが不振に陥った2年次にケガを抱えながらプレーしていたことを知っていた。ムンマウはシステムの低評価の原因となった2年次の不振について説明し、チーム分析担当ディレクターのジェシー・スミスをはじめとするスタッフ全員の安心感を高めた。
マリナーズはローリーを3巡目で指名する計画を立てた。3巡目指名権を持っていなかったブレーブスが4巡目で100万ドル以上の契約金を約束していたという噂もあったが、マリナーズにはそれだけの契約金を払う余裕がなかった。マリナーズはムンマウとローリーの良好な関係、そしてローリーがプロの世界に入りたいと思っており、最終的に契約するだろうというムンマウの直感を信じていた。
現在ドジャースの特別アシスタントを務めるアリソンは語った。
「鍵となったのは、ロブがドラフト1巡目のローガン・ギルバートの時のように、選手の空白を埋めることができたことだ。カルの2年目はひどい成績だったが、ロブはフロリダ州立大学のコーチ陣と非常に緊密な関係にあり、たとえそれが目に見えなくても、彼が怪我をしていることを把握していた。ロブは空白を埋めることができた。それが優秀なスカウトのすることだ」
2016年9月からマリナーズのスカウト部長を務めているスコット・ハンターは、自分のチームがローリーについて好意的な報告をしていたが、その中でもムンマウの報告ほど高評価なものはなかったことを覚えている。
「最初のスカウティングレポートは2017年秋に届いた。ロブは彼のパワーに高い評価を与えていた。70(20~80評価、50はメジャーリーグ平均)だった。ひどい2年目を終えたにもかかわらず。他の皆は55か60だと思っていた。彼にはパワーはありましたが、守備の評価はどれも45~50程度でした。肩も45~50程度で、純粋な打撃能力は、人によっては軽視されていた。しかし、ロブは彼をより高く評価し、60から70の評価を与えていた」
ムンマウは、ローリーの父トッドが同校のアシスタントコーチを務める数年前、ジェームズ・マディソン大学で大学時代を過ごし、その家族と親しかった。2015年、1年生になる前の秋季練習で初めてローリーを見学し、多くの魅力を感じたという。
「カルはすぐに頭角を現した。大柄で体格に恵まれ、両打席から力強い打球を放つ選手だった。キャッチングも良く、肩も強かった。彼について私が注目したのは、様々な角度からボールを投げられることだ。『この選手は他のキャッチャーよりも運動能力が高い』と思った」
他のマリナーズ内部の評価では、ローリーは控え捕手が既定路線で、レギュラー獲得の可能性もあるというものだった。ムンマウはローリーがスタメン捕手になれると想定していたが、メジャーで最高の守備力を持ち、シーズン60本塁打を打つような選手になるとは思っていなかった。
ローリーとの契約交渉はギリギリまで緊迫し、7月6日の期限直前に85万4000ドル(契約金を22万1300ドル上回る)で契約した。プロ1年目で29本塁打を放ち、2Aに昇格すると、マリナーズは予想以上に実力があるかもしれないと気づき始めた。2021年にメジャーデビューを果たし、翌年には代打サヨナラ本塁打を放ち、シアトルの21年ぶりのプレーオフ進出を決めた。レギュラーとして4シーズンで通算151本塁打を放つ一方、フレーミング・盗塁阻止など守備力も際立っている。
アリソンは語る。「彼が今のようなパワーを持つとは誰も思っていなかった。カルに会っての考え方や、体を鍛えて投球やゲームプランを磨きたいという熱意を知ると、『ああ、彼には特別な選手になれるチャンスがあるんだ』と思った。彼の資質は本当に素晴らしかった」
ローリーの資質こそが、この成功の最大の要因かもしれない。ローリーはほぼ毎日プレーし続けるタフさと情熱、そして常に向上しようとする意欲と勤勉さを持っている。
ローリーがマイナーリーグに在籍していた頃、彼は自宅の部屋でブロッキングの練習ができるように、テニスボールを投げるマシンを使っていた。コーチ陣は、ウェイトボールを使ったトレーニングや、リリースと肩の筋力向上のための投球練習、そして投手陣とのゲームプランニングに時間をかけるために他の選手より何時間も早く球場に到着して練習を終わらせていることを常に注目していた。
ハンターは語る。「カル・ローリーについては、我々は皆間違っていた。ローリーをチームに迎え入れ、そのまま任せた。大学時代と比べて、成績は2、3段上がった。我々は正しい理由で、正しい人間、そして正しい選手を獲得した。そして、そこに至るまでには皆で力を合わせた努力があった」