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ブルワーズは運が良かった? パワーなしで総得点メジャー3位の理由

2025.10.4 15:07 Saturday

 「われわれはほぼすべてのエラー、守備のミス、そして投球のミスをうまく利用してきた。それがわれわれの哲学であり、アイデンティティだ。相手にプレーさせ、その過程で相手を地獄に引きずり込みたい」
ブルワーズの打撃コーチ、コナー・ドーソンはブルワーズの哲学についてこう語った。

 今季のブルワーズはチーム本塁打数でメジャー22位、ハードヒット率で同25位、「スタットキャスト」の打球の質を測る指標で同27位タイ、ゴロ率で4位に終わった。確かに三振数は平均より少し少なく、四球数も平均より少し多かったが、どちらの数字も飛び抜けて優れているわけではない。実際、これらのチーム成績は得点力に優れた攻撃陣の特徴より、ホワイトソックスのようなチームを彷彿とさせる。

 それでも、ブルワーズは806得点を挙げた。これはメジャー3位の得点数で、ヤンキースとドジャースに次ぐ数字だった。ホワイトソックスよりは159得点多く、1試合あたりの平均では1得点多い。ただ、9月に限れば、30チーム中22位に低迷した。

 これらすべてを踏まえると、2つの疑問が浮かび上がる。ブルワーズはレギュラーシーズン最初の5ヵ月間で本来の実力から予想される以上の得点をどのように生み出したのか?さらに重要なのは、あす4日(日本時間5日)から始まるポストシーズンで、再び同じことを成し遂げられるか?

 ブルワーズの得点はすべて魔法で入ったわけではないが、大きな本塁打によって入ったわけではない。ブルワーズは101点の非自責点を奪い、これはメジャーでダントツの数字だった(マーリンズが83非自責点で2位)。これはシーズン総得点の8分の1に相当する。また、非自責点は延長戦のオートマチックランナーの得点も含められるが、ブルワーズは延長戦での得点数は中堅クラスだった。

 そもそも自責点という用語は、投手のために存在する。バックの守備のミスによって投手の成績が不当に悪くならないように生み出された。つまり、相手打線にとっては全く関係がない要素だ。しかし、今季のブルワーズが非自責点を意図的に多く生み出せていたとしたら?

 MLBのデータシステム「スタットキャスト」には、「フィールディング・ラン・バリュー」という守備力を測る上で最も有用な指標がある。これはあらゆる守備の要素を同じ土俵で表すことができる。

 この「フィールディング・ラン・バリュー」は、その打線と対したときの相手チームの守備力も測ることができる。そして、結論から言えば、今季ブルワーズ打線と対したときの相手チームの守備力は、メジャーで最も悪かった。

2025年、打撃時の相手の内野守備が最も悪い打線

-26 // ブルワーズ
-22 // アスレチックス
-20 // タイガース
-18 // オリオールズ
-17 // ガーディアンズ

 守備の不調に最も助けられたチーム(ブルワーズ)と、守備の好調に最も苦しめられたチーム(パイレーツ)の間には、58点の差があった。「10点取れば勝ち」という短絡的な表現からすると、極端な場合では6勝、平均より3勝近く多いと言えるかもしれない。

 これは単に運が良かっただけだと言う人もいるだろう。ブルワーズを貶すつもりはないが、確かにある程度は正しい。この守備のマイナスには、太陽と打球が重なって落球したようなケースも含まれ、それらはバットをボールに当てたという点を除けば、それほど技術が絡んでいるとは思えない。

 ただ、ここにブルワーズの戦略が隠されているかもしれない。ブルワーズは他のどのチームよりスイングが少ない一方、ボール球を振ってしまう確率も他のどのチームより低い。スイングをすれば、他のどのチームよりコンタクトが多い。

 ブルワーズはより多くのボールをバットに当てられる。そしてブルワーズのチーム平均のスプリントスピード(脚の速さ)はメジャー2位あり、打席から一塁への平均到達タイムは最速。今季のブルワーズがダントツで内野安打が多く、さらに直近10年で見ても最多だった。

2015年以降、チーム内野安打数

174 // 2015レッドソックス
164 // 2025ブルワーズ
162 // 2015アスレチックス
161 // 2018カブス

 「プレッシャーをかけることで、良いものが生まれると思う」とドーソン打撃コーチは語る。相手にプレッシャーをかけるとは、例えばこのようなプレーだ。ブライス・トゥランは4.04秒で打席から一塁へ到達した。これはトゥランによる今季のベストハッスルプレイの一つだ。このプレーにより、オリオールズの遊撃手ガナー・ヘンダーソンは「スタットキャスト」が80%の確率でアウトにすると評価した内野ゴロを内野安打にしてしまった。

 さらに塁に出たあとでも、走力の脅威は続く。ブルワーズの走塁得点指標はメジャートップの+15であり、これは1.5勝分に相当する。個人ではこの走塁指標でトップ40に入る選手が一人もいなかっただけに、そのチーム力の高さは注目に値する(平均を下回ったのは捕手のウィリアム・コントレラスのみ)。ブルワーズは盗塁数でもメジャー2位に入っている。

 これらの要素すべてが結果につながっている。出塁した走者が得点した確率33%は、メジャートップだ。

 「私たちが一年を通してやってきたこと全てが、この試合にどう臨むべきかということと合致している。誰も信じてくれないかもしれないけど、これは私たちにとって大きなプラスになると思う。なぜなら、私たちは一年を通してこういう野球をやっているからだ」と、パット・マーフィー監督は語る。

 ナ・リーグ東地区のスカウトもこう語った。
「今のチームには、本当のアイデンティティってものがない。私にとって、ブルワーズは最も深いアイデンティティを持つチームであり、どんな野球をしたいのかを分かっている」

 しかし、ブルワーズの前には歴史的な逆風が直接立ちはだかっている。もしポストシーズンにおいて、決して揺るぎない真実があるとすれば、それはパワーがなければプレーオフで勝利することはできないということだ。スモールボールは10月まで持ちこたえるには役立つかもしれないが、世界一にはつながらない。近年のガーディアンズが証明しているように。過去10年のポストシーズンで、対戦相手に本塁打数で勝ったチームは、82%の勝率を誇っている。

 少なくとも、ポストシーズンには守備が良いチームしか出られないという理由もある。(驚くことではない。今年の守備指標上位5チームはいずれもプレーオフに進出したが、下位9チームのうち、マリナーズしかプレーオフに進出できなかった)

 そのため、インプレー打球の打率(BABIP)は、レギュラーシーズンの比べてポストシーズンでは大きく低下するということが証明されている。過去10年ではレギュラーシーズンのBABIPが.296(BABIPは長い目で見れば.300前後に収束する)なのに対し、ポストシーズンでは.277に下がる。

 同時に三振率も上昇し、レギュラーシーズンでは22.3%だった三振率は、ポストシーズンでは25%に上がる。

 フェアゾーンに打球を飛ばしてもヒットになる確率は低く、さらに三振も増える。ポストシーズンで本塁打が重要視されるのは当然だと言える。

 「どんなチームでもポストシーズンで得点するのは難しい。ブルワーズでもドジャースでも、どんなチームでもね。僕らの攻撃は塁に出れば機能する。必ずしも長打を打つ必要はないが、長打を打てる可能性は間違いなくある。それが僕らにはあるんだ」と、主砲のクリスチャン・イェリッチは語る。

 実際、ブルワーズは長打を量産する期間もあった。ブルワーズはレギュラーシーズン最初の2ヵ月間では、長打率は下位10チームに位置していたが、次の2ヵ月では平均レベルに上昇。そして8月にはメジャー2位の長打率.480(チームとしても2008年以来の高水準)を記録した。

 しかし、9月には長打率、得点ともにメジャー23位に低迷。8月の長打攻勢を牽引したトゥランは月間本塁打を10から2に減らし、シーズン途中にブレイクしたアンドリュー・ボーンは119打席連続本塁打なしでシーズン終了。さらにコントレラスも左手の打撲に悩まされた。

 仮に長打力が戻ってこないならば、ポストシーズンでの成功は相手守備を苦しめることにかかってくる。それは起こり得る。昨季、ワールドシリーズ第5戦ではヤンキースの守乱が勝負を分けた。ただ、ポストシーズンで対するのは優秀な守備力を持つチームばかりだ。

 ナ・リーグ最強の守備を誇るカブスとの地区シリーズで、メジャー最高勝率を記録したブルワーズの真価が測られることになるだろう。


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