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PS衝撃デビューの新人シュリットラー 成功の秘密は3種類の直球

2025.10.7 11:19 Tuesday

 レッドソックスとのワイルドカードシリーズ(WCS=3回戦制の第3戦、ヤンキースは「勝てばシリーズ突破、負ければシーズン終了」の大一番を新人右腕キャム・シュリットラーに託した。わずか14登板の経験しかない24歳は、レッドソックス打線を8回無失点、12三振、無四球に抑えた。「勝てばシリーズ突破、負ければシーズン終了」の試合でこの日のシュリットラーより多くの三振を奪った投手はいない。まさに歴史的快投だった。

 シュリットラーの“アンコール”はブルージェイズとの地区シリーズ(ALDS=5回戦制)第4戦で行われる予定だ。もっともヤンキースは第2戦を終えた時点で2敗と王手をかけられ、第3戦に勝利しなければシュリットラーにボールを託せない。ただ、仮に第4戦が行われれば、シュリットラーは再び敗退の危機に瀕したチームを救うチャンスがある。シュリットラーはその気概と能力によって、救世主になれることを証明してきた。

 シュリットラーの圧倒的なパフォーマンスの秘密、それは直球にある。レッドソックス戦では89.7%の割合で、3種類の直球。107球のうち、96球がフォーシーム、シンカー、カットボールで占められた。ピッチトラッキングシステムが導入された2008年以降、ポストシーズンの登板(50球以上)で先発投手がこれ以上の割合で直球を投じたのは過去にわずか11例しかない。このリストに2度登場するのは、直球一本槍で知られたランス・リンのみ。そして、直近では2022年ALDSのカル・クオントリル(ヤンキースとの第1戦)だ。

 しかし、シュリットラーの直球偏重のスタイルは、近年の傾向に真っ向から反するものだ。今季は2008年以降、どのシーズンより直球の投球数が少ないシーズンだった。ポストシーズンで見ても、直球の使用割合は2019年以来の低水準となっている。

 それでも、シュリットラーは96球の直球とわずか11球のカーブで、歴史に名を刻む投球を披露した。そしてレギュラーシーズンを通しても、右打者に対して88%、左打者に対しても79%の割合で直球を投げている。

 「4種類の球種を混ぜているだけだが、すごく上手くいっている」と、シュリットラーは語る。

 直球を投げる割合が減っているこの現代、なぜシュリットラーは成功できているのか。

 その秘密はシュリットラーがフォーシーム、シンカー、カットボールという3種類の直球を投げ分けている点にある。「MLB.com」のデービッド・アドラーが指摘したように、3種類の直球を投げる先発投手が増えている。昨季のサイ・ヤング賞投手タリック・スクーバル(タイガース)も2種類の直球を投げ分け、この潮流を今季の投手界における「最大の変化」と評した。

 投手が3つの球種を、似たような球速で、かつ異なる変化で投げれば、打者はバットの軌道をボールに合わせるのが難しい。それが複数の直球を投げ分けるメリットだ。

 打者は変化球を判別するときのように、回転をヒントにすることができない。直球同士であれば回転の違いを感知する要素があまりなく、さらに判別が難しくなる。

 下の画像は、シュリットラーが投げる球種の回転の分析を示している。左は投手の手元からの回転に基づく動きであり、右は打者から見える動きである。

 フォーシーム(明るい赤)とシンカー(オレンジ)がシュリットラーの右手を離れたとき、打者にはその2球種は同じ回転をしているように見えるが、打席に到達する頃には異なる変化をしている。シンカーはややカット気味に動くフォーシームより、右打者方向に食い込む変化が大きい。一方で、カッター(濃い赤)は逆の左打者方向に途中で変化する(10:45の回転方向で投じられ、打席に到達する頃には9:45の回転方向に倒れている)。

 もう一つの要素は球速だ。シュリットラーのフォーシームは平均98マイル(約157.7キロ)に達する。これはハンター・グリーン(レッズ)、ジェイコブ・ミジオロウスキー(ブルワーズ)、そしてポール・スキーンズ(パイレーツ)といったMLB屈指の剛腕たちに次ぐ速度だ。そしてシンカーも平均97.5マイル(約156.9キロ)、カットボールも91.9マイル(約147.9キロ)をマーク。とにかく速い。

 つまり、シュリットラーの3種の直球は回転から判別することが難しいだけではなく、その球速のせいで打者は判別するだけの反応時間が短いのだ。

 これを打つのはどれほど難しいのか。

 2種の直球を投げ分けるマイケル・キング(パドレス)は、ヤンキース時代に同僚だったDJ・ルメーヒューにこう言われたという。
「95マイル以上で変化が異なる直球を2種類も投げたら、打者がバットの軌道を球に合わせるのは不可能だ」
シュリットラーは、実際には、95マイルではなく97マイル以上でそれらを投じる。

 しかし、シュリットラーは常にこの投球スタイルだったわけではない、2023年、1Aにいたシュリットラーの平均球速はわずか90マイル(約144.8キロ)。レッドソックス戦では98マイル以上のボールを史上最多の64球投げた投手と、とても同じ人物とは思えない。

 ヤンキースが2022年ドラフト7巡目でシュリットラーを指名した際、球団は身長198センチのシュリットラーに9キロの筋肉をつけるよう指示した。これは簡単ではなかった。食生活を見直し、ウエイトトレーニングに励み、球団の健康・パフォーマンス担当ディレクターであるエリック・クレッシーと緊密に協力した。また、直球の変化量向上のため、新しい握りに変更する工夫もあった(その工夫も球速向上に一役買った)。

 その努力が今日のシュリットラーの“魔球”を生み出した。レギュラーシーズン中、シュリットラーのフォーシームは被打率.176、空振り(/スイング)率は148人の先発投手の中で11番目の27.7%だった。長身のおかげで、平均リリース位置はどの投手よりも高い6.39フィート(194.7センチ)と、球速・その他の直球との組み合わせ以外のアドバンテージもある。

 レッドソックス戦ではフォーシームで空振り11度(全26スイング)を奪い、シンカーは自己最多の25球を投じ、カッターは4度の凡打を誘った。まさに3種の直球のコンビネーションが本領を発揮した試合だった。
「素晴らしい投球だった。衝撃的だった」と、レッドソックスのアレックス・コーラ監督でさえ、手放しで称賛するほどだった。

 ALDSで対するブルージェイズにも好投できるだろうか。レッドソックスとはレギュラーシーズン中に対戦がなかったが、ブルージェイズとは既に2度対戦している。1度目の7月の先発では好投したが、9月の先発では打ち込まれた。シュリットラーは9月の登板時に、ブルージェイズ打線に球種の“クセ”がバレていたと考えている。

 クセの問題を抜きにしても、ブルージェイズ打線は手強い。シュリットラーの武器である球速を、ブルージェイズ打線は苦にしないのだ。98マイル以上のボールに対し、ブルージェイズ打線のwOBA(攻撃力を測る指標)は.296でMLB10位をマークしている。レッドソックス打線は同25位と98マイル以上のボールに弱かったことを考えれば、一筋縄ではいかないはずだ。

 そして、ブルージェイズ打線はシュリットラーが多用する「高めの直球」にも強い。95マイル以上で高めのゾーンに投じられたボールに対するwOBAは、MLBトップの.323(レッドソックスはワースト7位)。ポストシーズンで好調のアレハンドロ・カーク(長打率.813)とブラディミール・ゲレーロJr.(長打率.667)は特に高めの直球に強い。

 不利なデータが揃っているとはいえ、これは好勝負になるだろう。そして、24歳の若武者に恐れはないはずだ。ヤンキースが第3戦に勝利してシーズンを長らえれば、シュリットラーは3種の直球で挑み、それがシュリットラーとチームをどこへ導くか試すだろう。

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