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カブスファンのプリースターがリグレーでのNLDS第3戦に先発へ

2025.10.8 09:25 Wednesday

 イリノイ州北部で育ったクイン・プリースター(ブルワーズ)は子供のころ、祖父母に連れられてリグレーフィールドを訪れていた。年に1度、祖父母はプリースターと妹のマディを球場へ連れていき、プリースターは「ホットドッグを好きなだけ食べた」という。

「ここで野球観戦をするのはいつも最高だったし、間違いなく、野球に対する愛が芽生えるきっかけになった」とプリースターは当時を振り返る。

 プリースターは長年にわたり、リグレーフィールドで多くの試合を観戦してきた。2016年のワールドシリーズ第5戦も現地にいた。新型コロナウイルスのパンデミックの影響を受けた2020年には、球場の外にある屋上のシートからカブス対パイレーツの試合を観戦した。

 そして今年5月、プリースターはカブス戦で自己ワーストに近い投球を見せたが、それをきっかけに大ブレイクを遂げることになり、10月8日(日本時間9日)に行われるナショナル・リーグ地区シリーズ(NLDS)第3戦で先発投手を務めることが決まった。

 5月2日(同3日)、プリースターはブルワーズ移籍後5度目の登板に臨んだ。オープナーのあとを受け、一回途中から2番手として登板したが、役割を果たすことができず、今季ワーストの7失点。9カ月間で3つの球団でプレーした右腕にとって、結果が求められるシーズンでの厳しい登板となった。

 プリースターは2019年ドラフト1巡目指名でパイレーツに入団し、有望株ランキングのトップ100にも名を連ねたことがある「元トップ・プロスペクト」だ。しかし、2023年7月のメジャーデビュー以降、常に「結果を残さなければならない」というプレッシャーを感じながらプレーしていたという。投球フォームを安定させることができず、メジャーとマイナーの往復を繰り返しながら苦戦する日々を過ごした。

 プリースターは「メジャーで投げられるだけの能力があると常に信じてきた。ただ、どうすればそれを実行できるかを考える必要があった。ピッツバーグ時代は失敗の連続で、常に緊張していたと思う。取り組んでいたことがなかなか上手くいかなかったんだ」とパイレーツ時代について語った。

 パイレーツは2024年のトレード期限を前に、プリースターをレッドソックスへ放出することを決断した。しかし、プリースターは今季、レッドソックスの開幕ロースターに残ることができず、4月7日(同8日)、今度はブルワーズへトレードされることが決まった。どちらのトレードもプリースターにとっては予想外の出来事であり、5月2日(同3日)の登板もプリースターにとっては大きなダメージとなった。

 しかし、その登板はプリースターにとって必要なものだった。

 その登板の翌日、プリースターは「これから良いことが起こるはず。そのために頑張っていこう」という気持ちになったという。「僕は何を言っているんだ?打ち込まれたばかりなのに」とも思ったようだが、「最高の結果を出せなかったにもかかわらず、チームは僕に信頼を寄せてくれた」とチームからの信頼を意気に感じていた。

 ここで重要なのは、プリースターが苦しい状況の中でどのように対処したかということだ。二回に一挙7失点を喫したプリースターだが、三回は走者を出しながらも無失点に抑え、四回と五回はいずれも三者凡退で切り抜けた。今季ワーストの登板だったが、最後の3イニングは無失点に抑えたのだ。

 パット・マーフィー監督は「それが大きな変化だった。カブス打線は彼に猛攻を浴びせたが、彼は投げ続けることを望み、そして結果を残した。あの失敗がきっかけで、周囲の意見を聞くことができるようになったのだと思う。どうすればいいのかを考えるようになったんだ。もともと競争心を持った選手であり、(あの試合があったからこそ)我々は彼の最高の姿を手に入れることができた。奇跡的だよね。今や彼は我々にとって素晴らしい存在だ」と5月のカブス戦がターニングポイントだったことを強調した。

 マーフィー監督の言葉は決して大袈裟ではない。5月末以降、ブルワーズはプリースターが登板した試合で19連勝を記録。プリースター自身はシーズントータルで13勝3敗、防御率3.32の好成績を残し、メジャー最高勝率をマークしたチームにおいて、最高の投手の1人となった。

 同僚のサル・フリーリックは、プリースターの今季の活躍について「彼はかつてのドラフト1巡目指名選手であり、多くの才能を持ったプロ野球選手だ。このようなブレイクイヤーを迎えるのは時間の問題だったのだと思う」と語った。

 劇的な飛躍だったが、その道のりは着実だった。プリースターはレッドソックス在籍時にフォーシームを投げるのをやめ、カットボールに切り替えた。そして今季、ブルワーズでそのカットボールに磨きをかけた。コーチ陣との話し合いの中では、投球フォームよりも投球内容が重視され、プリースターは以前より肉体的にも精神的にも伸び伸びとプレーできるようになった。

 さらに、プリースターはブルワーズのプレースタイルについて学び、ブルワーズの選手たちがお互いに求めるものについても理解した。幸いなことに、ブルワーズの野球は守備を重視しており、チーム優先の姿勢を大切にしていた。

「ブライス・トゥラングとジョーイ・オーティズがセンターラインを固めてくれなかったら、ジャクソン・チューリオがダイビングキャッチをしてくれなかったら、ブレイク・パーキンスがホームランキャッチをしてくれなかったら、僕は今季のような成績を残せなかったと思う」とプリースター。「2ケタの三振を奪うためにマウンドに立っているわけではない。ゴロを打たせ、後ろを守ってくれている素晴らしい選手たちに助けられている。僕のピッチングが素晴らしかったのではなく、周りの選手たちが素晴らしかったから僕は好成績を残せたんだ」と同僚への感謝を口にした。

 プリースターはNLDS第2戦で登板しなかったものの、「チーム優先の姿勢」を体現した。その試合でブルワーズはオープナーにアーロン・アシュビーを起用。プリースターは試合前に投球練習を行い、「アシュビーのあとに登板するのではないか」とカブスを惑わせた。実際には有望株ジェイコブ・ミジオロウスキーを軸としたブルペンゲームを展開し、ブルワーズは7-3で勝利を収めた。

「ポストシーズンでは少しでも優位に立てるようにチャンスを狙っていく必要がある。それ(=投球練習をしたこと)が何かの役に立ったかどうかはわからないけれど、少なくとも優位に立てるように努力はした。僕たちはそういう努力をして、少しでも優位に立ちたいと思っているんだ。チームに貢献できるなら、どんなことでも喜んでやるよ」とプリースターは語った。

 今度は相手の目をごまかす必要はない。プリースターはNLDS第3戦の先発投手としてマウンドに上がる。FAになるのは2030年のシーズン終了後であり、プリースターは今年のポストシーズンだけでなく、来季以降も長きにわたってブルワーズに貢献できる選手だ。

「失敗がなければ、こういうことは起こらない。失敗を経験したからこそ今がある。失敗するのは本当につらいことだけれど、成功するためには払わなければならない代償なんだ。小さな失敗なら歓迎するよ」とプリースター。失敗を経て大きな飛躍を遂げた右腕は、自身初となるポストシーズンの登板に臨む。

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