猛打ブルージェイズの秘密 三振とパワーの多さを両立
2025.10.12 11:26 Sunday
ブルージェイズ打線の真骨頂は多くの投球をバットに当て、インプレーにすることだ。今季、ブルージェイズのチーム三振率はMLBでベスト(17.8%)。さらにポストシーズンでも三振率は最も低い(14.9%)だ。その打撃スタイルは成功しており、レギュラーシーズンでは総得点がMLB4位、そしてポストシーズンでも34得点は全チーム中最多。ブルージェイズ打線は素晴らしい攻撃力を持っている。
しかし、三振率が低いのは昨季のブルージェイズも同じだった。チーム三振率はMLBベスト5に入っていた。ただ、昨季のブルージェイズはただ三振が少ないだけだった。得点力には結びつかず、総得点は23位に低迷した。
コンタクト(ボールをバットに当てる)の重要性は、多少誇張されているとはいえ、確かに価値がある。ただ、ブルージェイズ打線がヤンキースとの地区シリーズ(ALDS)4試合で9本塁打を量産し、ポストシーズンのシリーズ史上3位の長打率.601をマークしたことも忘れてはならない。ただボールをバットに当てるだけではなく、価値のあるコンタクトが重要なのだ。
「より多くのコンタクトを生み出すこと」、そして「価値のあるコンタクトを生み出すこと」。その両立がブルージェイズの成功につながっている。
まずは「より多くのコンタクトを生み出すこと」に着目しよう。
ブルージェイズの地区シリーズでの三振率は、わずか15%だった。地区シリーズに出場したチームの中では最も優秀な数字であり、平均の23%を優に下回っている。とはいえ、三振率ワーストのドジャースもまた勝ち進んでいる。現代野球、そしてポストシーズンになれば、昨今では三振率が高いのは当たり前になっている(もちろん、投手の球速がポストシーズンでは上昇することも関係している)。
三振率が高くて当然の現代では、ブルージェイズが相対的にどれほど三振が少ないチームなのかが分かりづらい。ポストシーズン全体の三振率と比較した際の三振率は、1913年から数えて今季のブルージェイズが史上2番目に優秀だ。
ポストシーズン平均と比較したポストシーズンにおけるチーム三振率(100が平均、低いほうが優秀)
・63 // 2006 ツインズ
・66 // 2025 ブルージェイズ <<--
・72 // 1976 フィリーズ
・73 // 1976 ヤンキース
・74 // 1980 アストロズ
ブルージェイズはまだ地区シリーズしか戦っていないため、まだサンプルは少ない(シリーズ平均との比較では歴代7位)。さらに歴代最高のツインズもスイープ(3連敗)でポストシーズンを敗退している。
レギュラーシーズン平均と比較したレギュラーシーズンにおけるチーム三振率(100が平均、低いほうが優秀)
・75 // 1986 レッドソックス
・77 // 1969 ブレーブス
・78 // 2024 パドレス
・78 // 2002 エンゼルス
・78 // 1982 クリーブランド
・79 // 2025 ブルージェイズ <<--
これらの数字を見れば、ブルージェイズが三振の多い現代の基準のみならず、歴史的に見ても三振が少ないチームだと分かる。しかし、いくらコンタクトが多くても、ポストシーズンを勝ち進めるわけではない。
・試合中に相手より多くの本塁打を放ったチームの勝率は.823
・相手より三振が少ないチームの勝率は.640
これを両方兼ね備え、より多くの本塁打を放ち、より三振が少ないチームの勝率は.900にのぼる。
つまり、「三振の少なさ」そして「長打の多さ」を両立させれば、10回に9回勝てるほどには効果的だ。
「われわれはボールを前に飛ばし、インプレーにする。シーズン通してそれをやってきた。本塁打はこの時期に特にギアを上げている投手に対して、本当に良いアプローチをしてきたことの副産物だと思う」と語るのはジョン・シュナイダー監督だ。
監督が語る「本当に良いアプローチ」は、圧勝した地区シリーズだけでなく、これから控えるリーグ優勝決定シリーズやワールドシリーズでも発揮できるだろうか。
ブルージェイズ打線が地区シリーズで取ったアプローチ
第一にブルージェイズ打線はストライクを積極的に振っていた。非常に積極的に。ブルージェイズ打線はストライクゾーンに投じられたボールの71.1%にスイングしていた。この割合は地区シリーズに進出したチームの中では最多で、過去の地区シリーズに出場した全152チーム中でも6番目に高い数字だった。
しかし、ただストライクを積極的に振っただけでは、必ずしても得点に結びつくわけではない。レギュラーシーズン中でストライクゾーンの投球に対して最もスイングを仕掛けたのはMLB最低勝率のロッキーズで、最もスイングが少なかったのは最高勝率のブルワーズだった。
しかし、この積極打法はブルージェイズの選手たちがまさに心がけているものだ。
地区シリーズでも活躍したアーニー・クレメントは語る。
「僕たちは1打数無安打に終わるくらいなら、1ストライク0ボールになっても構わない。もし相手にやられたとしても、スイングを仕掛けて残りの打席を全力で戦う。でもこれは考え方の問題だ。ど真ん中に来た初球を振ってアウトになっても仕方ない。これが僕の考え方だ。ただ、外角に2球分外れたボールを振って内野ゴロに倒れたら、誰にとっても良いことにならない」
ブルージェイズ打線はボール球スイング率が悪かったため、アプローチについて過度に評価はできない。ポストシーズンではネイサン・ルークスだけボール球を4度も安打にしている。
しかし、ここにブルージェイズ打線のプランがある。コンタクト率は82%で、過去10年の地区シリーズでは歴代3位の高水準。一方で、四球率は今季の地区シリーズに進出した8チーム中、5%でワーストだった。
四球を捨ててでも積極的にスイングを仕掛けるブルージェイズの姿勢は、幸運を生み出している。本塁打と三振などを除いたインプレー打球の打率(BABIP)は、2021年以降の地区シリーズで最高の.347をマークした。さらにストライクゾーン外のボールを打って記録した16安打、打率.364は驚異的な水準だ(ブルージェイズはレギュラーシーズンでもボール球打率でMLBベストを記録したが、それでも打率は.189に過ぎなかった。いかにこの数字が並外れているか分かる)。
しかし、その幸運にも数字の裏付けがある。ブルージェイズ打線が仕掛けるスイングは速く、放つ打球は強烈なのだ。
昨季、チーム本塁打数がMLBワースト5位だったブルージェイズは、平均バットスピードがMLBで最も遅かった。球界で最もスイングが鋭いブラディミール・ゲレーロJr.を抱えながらも、チームで見ればスイングは最も鈍かったのだ。
リーグ有数の得点力を放った今季も、序盤はスイングも得点力も鈍いままだった。4月のチーム総得点はワースト5位で、バットスピードもMLBで最も遅かった。
しかし、シーズンが進むにつれてバットスピードは向上した。6月から8月にかけてのファストスイング率(75マイル以上のバットスピードを記録した割合)は平均レベルだったが、9月にはMLB5位に躍り出た。これは今季ツインズから加わった新打撃コーチであるデービッド・ポプキンスの指導が、ラーニングカーブを描いて成功につながった結果かもしれない。
そしてポストシーズンにおける平均バットスピード72.6マイル(約116.8キロ)は、最もスイングが鋭かったヤンキースやレッドソックスと同水準だ。さらにファストスイング率37%も、4月に記録した20%からほぼ倍増。MLB最高の水準に向上した。
バットスピード向上の部分的要因は、スイングが鋭い選手の出場時間が増えたことにある。バットスピードがリーグ上位7%に位置するアディソン・バージャーが定位置を獲得し、上位8%の鋭いスイングを誇るドールトン・バーショも負傷から復帰した。
しかし、主な要因は、出場し続けていた主力選手のバットスピードが向上したことにある。アレハンドロ・カーク、ジョージ・スプリンガー、デービス・シュナイダー、ネイサン・ルークス、そしてマイルズ・ストローといった選手たちは、シーズン終盤からポストシーズンにかけてバットスピードを上げた。偶然と言うには、あまりに多くの打者がバットスピードを上げている。
「選手たちに意図を持ってスイングさせて、フィールドの中央を突破させれば、その後起こることは起こるべくして起こったことだ」と、ポプキンス打撃コーチは7月に地元メディアに語っている。
約10年前、当時クリーブランド傘下に所属していたシェーン・ビーバー(現ブルージェイズ)は投球改革の最前線にいた。何十年もの間、球界は剛腕に投球術を教えようとしてきたが、投球術を心得た投手を剛腕に生まれ変わらせることが可能だと明らかになった。
そして、打撃コーチたちは1世紀もの間、パワーヒッターにボールをバットに当てる方法を教えようとしてきた。しかし、投球改革で起こったことと同じようなことが起きているとしたらどうだろうか。つまり、コンタクトが上手い打者のスイングを鋭くさせ、パワーを身に着けさせることが可能になっているのかもしれない。