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“マジシャン”大谷の投球戦略 スプリットを復活させた理由

2025.10.17 11:43 Friday

 大谷翔平は常に秘密兵器を持っている。7つの球種を操り、しかもどれも厄介な球種を持つエースならではの稀有な能力だ。そして今季のポストシーズンで、マジシャン・大谷は既に最新の技を繰り出している。

 大谷はこの大一番でスプリットを復活させた。かつて大谷の代名詞だったスプリットは、2025年のレギュラーシーズンではほぼ投じられてこなかった。しかし、フィリーズとの地区シリーズ(NLDS=5回戦制)の第1戦で、フィリーズの強力打線を相手に大谷はスプリットを復活。カイル・シュワーバー、ブライス・ハーパーといったリーグを代表する強打者から三振を奪った。

 したがって、あす17日(日本時間18日)に行われるナ・リーグ優勝決定シリーズ(NLCS=7回戦制)第4戦で投手・大谷と対するブルワーズも、あらゆることに備えなければいけない。ただ、大谷が投げてくるあらゆる球種に備えるのは不可能だ。

 エンゼルス時代は幾度となく三振を奪ってきた決め球・スプリットは、ドジャース移籍後はほとんど見られなくなっていた。しかし、この大一番でスプリットは復活した。この背景には何があるのか。

 覚えておいてほしいのは、大谷がMLBに挑戦した当初、スプリットは最大の武器だったということだ。それだけではなく、球界有数の球種だったと言っても過言ではない。

 しかし、年を追うごとに大谷はスプリットをコントロールできなくなっていた。ストライクゾーンから遠く離れた、無駄な球が増えていった。そしてついに大谷はスプリットを封印した。

 代わりに、大谷はスイーパーを多用し、2022年と2023年は第1球種となった。そしてドジャースに移籍してトミージョン手術からのリハビリを終えた今季は、フォーシーう、スイーパー、新しいハードスライダー、カーブを決め球として用いた。投手のレパートリーが多様化の一途をたどる現代らしいアプローチだ。

 そして、ついにかつての決め球・スプリットは、全体の5%に満たない割合に減ってしまっていた。

大谷のシーズン別スプリット投球割合

・2018年: 22%
・2021年: 18%
・2022年: 12%
・2023年: 6%
・2025年: 5%

 そして、フィリーズ戦で突然、大谷はスプリットを復活させた。スプリットの投球割合は10%を超え、前述のように強打者から三振を奪った。

 そしてはるかに重要なのは、スプリットの使用割合が増えたことではなく、大谷のスプリットが良い状態に戻ったということだ。大谷のスプリットのクオリティは完全に復活していた。

 大谷のスプリットは、ハーパーとシュワーバーから4度の空振りを奪った。大谷がスプリットでこれだけ多くの空振りを奪った試合は、2023年6月27日に遡る。

 鍵となったのは、コントロールの復活だ。フィリーズ戦では大谷のスプリットはストライクゾーン下辺に見事に集まり、相手のスイングを誘いやすかった。

 これが大谷がスプリットを投げたいスポットだ。相手に追いかけさせるボール球であっても、無駄球にはならない。エンゼルス時代末期のように、ゾーン付近に散らばる球ではなく、ゾーン下辺に集中させることが重要だ。

 大谷が突如としてスプリットを増やした理由は何だろうか。

 それはフィリーズの左打者に対して、2巡目で目先を変えるためだった。スプリットは大谷にとって、左打者に有効な3つの球種の1つだ。残りの2つであるカーブとハードスライダーは、共に2025シーズン中に開発し、使用頻度を高めてきた。この2球種はスプリットと並んで、フィリーズ打線に効果を発揮した。

 たとえば、カーブは6月の投手復帰以降、8月までは一度も投げられていなかった。しかし、ポストシーズンに進出する頃にはカーブに自信を深め、NLDS第1戦では18%の割合で使用。そしてカーブでは7スイング中6度の空振り、5打席で4三振を奪った。

 つまり、ポストシーズンの大谷は、新しい技(カーブとスライダ)を用いる一方で、古い技(スプリット)を復活させたのだ。

 ポストシーズンの試合で、球界屈指の強打者たちを相手に、形を変える武器を繰り出す大谷の自信、そして成功は、ポストシーズンでも予測不可能な投球戦略を適応させ、その新しい戦略を即座に実行する彼の能力を物語っている。

 フィリーズが打者・大谷を攻めるプランを持っていたのと同じように、投手としての大谷はフィリーズの最強打者に対するプランを持っていた。

 ブルワーズとの一戦でも、大谷はプランを持って臨むことだろう。スプリットを使うかどうかはまだ分からないが、何かが起こる可能性はある。

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