PSで急増の申告敬遠 戦略的に効果はあるのか?
2025.10.18 13:05 Saturday
故意四球はレギュラーシーズンでは激減しているにもかかわらず、今季のポストシーズンでは急増している。
10月16日現在、今ポストシーズンでは24度の故意四球が記録された。昨季は21度、一昨年は12度に過ぎなかった。これは2018年の26度以来、ポストシーズンでは最多だ。ポストシーズンのフォーマットが拡大されたのも関係しているが、まだワールドシリーズにも達していない現段階では、故意四球の頻度は高くなっている。
一方、レギュラーシーズンでは故意四球の割合は年々減っている。過去3シーズンは毎年「史上最低の故意四球率」が記録されている。これは明らかにナ・リーグにもDH制が導入され、投手の前の打者に故意四球を与える必要がなくなったことが関係している。
故意四球の減少にある考えはシンプルだ。史上初めて1年間にわたって故意四球を与えなかった2019年のアストロズを率いたAJ・ヒンチ監督は言う。
「ただで打者を出塁させることが正しいと思わない」
データから見れば、ヒンチ監督の意見は正しく、故意四球は理に適っていない選択だ。MLBのシニアデータアーキテクトであるトム・タンゴ氏がかつて自身の著作で示したように、故意四球が投手側に有利になると数学的に証明される唯一の状況は、九回裏1死二、三塁あるいは三塁の場合のみ。それでも、勝率への影響はごくわずかだ。
「もし打者が全員同じ能力を持っていたら、故意に四球を与えるのは、せいぜい損益ゼロの動きで、試合の早い段階でそうするのは逆効果だ。なぜなら、無失点のイニングの確率を上げるよりも、ビッグイニングの確率を上げるからだ」
レギュラーシーズンで故意四球が減少する理由は、データの裏付けがある。しかし、ポストシーズンで故意四球を与えられるのは、話題の球界のスターたちであり、「同じ能力を持つ打者」ではない。これまでの23度の故意四球は成功したのかを分析してみよう。
・11のインプレーアウト
・4三振
・単打3本
・二塁打3本
・四球2
・犠牲フライ1本
故意四球後の打撃成績は打率.273、出塁率.333、長打率.409だ。故意四球を与えたイニングで得点が入ったのは11度、つまり半分程度だった。故意四球を与えたイニングでの平均失点は0.91で、1イニングに1点に近い数字だった。
一方、故意四球を受けた16人の打者はほとんどがスター選手だ。アーロン・ジャッジ、カル・ローリー、大谷翔平といったMVP候補、そしてフリオ・ロドリゲス、ライリー・グリーン、ブラディミール・ゲレーロJr.、マックス・マンシーといったスラッガーが揃う。
故意四球を受けた打者の今季の打撃成績は、打率274、出塁率.350、長打率.506。これは今季のホセ・ラミレスの打撃成績とほぼ同等だ。ラミレスは将来の殿堂入り候補であり、今季は平均より33%優れた攻撃力を発揮した。
そして故意四球を受けた打者の走者がいる状況での打撃成績は、打率.286、出塁率.362、長打率.523に上昇する。これは平均より45%程度優れており、ざっと球界で7番目に優れた打者だったケテル・マルテと同じだった。
とはいえ、良い打者の次の打者も、故意四球を与えられる前の打者ほどではなくとも優秀だ。タンゴ氏が述べているように、打者の能力を考慮しても、「傑出した打者に故意四球を与えることは、ほぼ確実に(攻撃側)チームの得点力を向上させる」ことになる。
ただ、故意四球後の結果が悪かった場合、故意四球を与えなかった場合の結果も恐らくかなり悪いだろう。多くの場合は「取り得る最悪の選択肢は何か」を比較しなければならない。故意四球を与える選択肢がある状況では、以下の条件の少なくとも1つが当てはまる。そしてほとんどの場合、複数の条件が当てはまる。
・非常に優秀な打者が打席に立つ。
・すでに少なくとも1人の走者が塁上にいる(234回中22回)
・すでに3ボール0ストライクのカウントになっている(過去2回)
・投手と打者の相性が悪かった。
つまり、故意四球を検討する時点で、守備側は既に悪い状況に陥っている。
ここで問題は、「走者が一人多い状態で実力が劣る打者と対戦する方が良かったのか、それとも走者がいない状態で優秀な打者と対戦する方が良かったのか」ということになる。
ただ、これは状況にもよる。
ヤンキースとブルージェイズによる地区シリーズ第3戦の三回、1点ビハインドのヤンキースは無死二塁の場面でゲレーロJr.に故意四球を与えた。しかし、この敬遠策は失敗した。ヤンキースの投手だったロドンは次の打者を打ち取ったものの、そこから3者連続で単打を浴びて逆転された。試合序盤での四球は、一般的には絶対に避けるべきものだ。
しかし、ロドンはゲレーロJr.に対して非常に相性が悪かった。過去21度の対戦では一度も三振を奪えておらず、その試合の序盤では本塁打も打たれていた。敬遠策は失敗したが、果たしてゲレーロJr.と勝負するほうが良かったとも言い切れない。
一方、こうした試合の流れを決定づける状況でのみ、故意四球は行われるわけではないのも事実だ。今ポストシーズンでの24度の故意四球のうち、12度は試合の勝敗がほぼ決定していた状況(勝利確率85%以上)で行われた。
そして実際のところ、今ポストシーズンでは故意四球は試合の勝敗に大きな影響を与えていないことが分かっている。
2025年のポストシーズンの故意四球による勝利確率
・故意四球があり得る状況になった場合:攻撃側の勝利確率74%
・実際に故意四球を与えた場合:攻撃側の勝利確率75%
・その次の打者:攻撃側の勝利確率74%
・攻撃終了時:攻撃側の勝利確率75%
もちろん敬遠策が見事に成功した場合もあれば、成功しなかった場合もある。しかし、総合的に見れば差はほとんど出ない。
故意四球の話題で特に取り沙汰されるのが、ポストシーズンでは不調に陥る期間があった大谷の敬遠する是非だ。大谷の次を打つベッツは敬遠策のあと、一度は併殺打を記録したが、2四球、1本のタイムリーを記録している。大谷の敬遠は間違いなのだろうか。
必ずしも間違いではない。
まず大谷が突如として不振に陥ることは、2本塁打を放ったナ・リーグワイルドカードシリーズの時点では想像もつかないことだった。そして第二には、大谷の苦戦は特定のタイプの投手(低いアームアングルから内角を攻め立てる力強い左腕)に対して起きているということだ。故意四球が与えられた4度は、いずれも右腕相手であり、理論上は右打者のベッツの方が分は良かったかもしれない。
しかし、大谷は依然として大谷だ。特定の投手に対して沈黙しても、その脅威は変わらない。「走者がいる状態で大谷を右投手と対戦させる」ことが最悪の選択だとすれば、「走者がいる状態でベッツと対戦させる」ことも最悪だ。
故意四球はデータから見れば、誤った選択だ。
しかし、故意四球を与えるかどうかという状況に追い詰められてしまえば、「不利なマッチアップを受け入れ、強打者と対戦する」ことも、「故意四球を与え、その次の優秀な打者と対する」ことも、両方とも分が悪い。
結局は、故意四球という誤った選択を避けるための最良の方法は、そもそもそのような選択を迫られるピンチを作らないこと。言うは易く行うは難しであることは明らかではあるが。