過去と現在が交差するマリナーズ 名打者エドガーの教えで打線が活性化
2025.10.19 13:51 Sunday
「ザ・ダブル」がマリナーズの伝説となってから30年、エドガー・マルティネスが再びポストシーズンに戻ってくる。今回はコーチとして、新世代の選手たちが1995年のチームの悲願を成就するのを見守ろうとしている。
殿堂入りの名打者マルティネスは、1995年のア・リーグ地区シリーズ第5戦の11回裏にサヨナラ二塁打(「ザ・ダブル」)を放ち、マリナーズを球団初のア・リーグ優勝決定シリーズへと導いた。当時の本拠地キングドームで巻き起こった割れんばかりの歓声は、今もマルティネスの耳にこだまする。今、マリナーズが球団初のワールドシリーズ進出に王手をかける中、マルティネスは当時の記憶と重なる部分を感じている。
「1995年も今年も、本当に似たような状況だった。1995年は(地区で)エンゼルスを追っていましたが、今年はヒューストンだったね。あの頃の思い出が蘇ってきた。今回はさらに上を目指したいね」と、ブルージェイズとのALCS第5戦を前にマルティネスはそう語っていた。
マリナーズの往年の名捕手ダン・ウィルソン監督が就任して1年目、マリナーズは既に現役のファン世代が話として聞いたことしかない境地に達している。ウィルソン監督は今のシアトルの街の活気、マルティネス、イチロー、ジェイ・ビューナーといった多くのマリナーズのかつてのスターたちがこの快進撃に助力していることに、どこか懐かしいものを感じ取っている。
「エドガーとあの時のことをよく話すよ。お互いに顔を見合わせて、あの頃のことを思い出すんだ。 2001年のようにT-モバイルパークをまた見ることができるなんて、本当に最高の気分だ。前回同じ経験をした仲間たちが周りにいると、改めて特別な気持ちになる」
マルティネスはお飾りの存在ではない。ケビン・サイツァー、ボビー・マガリャネス打撃コーチと共に、打撃戦略のシニアディレクターを務め、マリナーズ打線を助けている。ウィルソン監督は、マルティネスのコーチとしての復帰は就任後、最も簡単な決断だったと語る。
「最初に声をかけたのはエドガーだった。彼以上に攻撃をうまくこなせる選手は知らない。彼は素晴らしい打者だった。それだけでなく、それを説明する能力も持っている。肉体面だけでなく、精神面でもね。まさに総合的な能力だ」
マリナーズのスター外野手フリオ・ロドリゲスも、マルティネスの最も熱心な教え子の1人だ。フリオによれば、2人の絆はバッティングケージの中にとどまらない。
「人生や野球について語り合う中で、本当に良い関係を築くことができた。エドガーは私のような若い選手、そしてクラブハウスの全員に、本当に多くのものを与えてくれると思う」
その影響力はマリナーズの打者に大きく現れている。マルティネスは今季の大半、ホルヘ・ポランコと多くの時間を共にしてきた。ポランコはポストシーズンでも大活躍。タイガースとの地区シリーズ第5戦では、マルティネスの「ザ・ダブル」を彷彿とさせるサヨナラ打を放った。
「ポランコの活躍は素晴らしい。オフシーズン中にスイングを調整したんだ。去年はオープンスタンスだったけど、今年は少しクローズドスタンスになった。手の位置も違うし、ボールに対してより短く、ダイレクトに反応するようになった。それが彼の全てだ」と、マルティネスはポランコへの指導について語った。
マルティネスが選手のときは、本能と反復がものを言った。しかし、現代では選手はデータ主導の野球をプレーしている。2015年から2018年もマリナーズで打撃コーチを務めたマルティネスは、こうした進化を積極的に受け入れている。
「今、入手できる情報量、スイングや投球を分析するために使われている技術は、本当に驚異的だ。私が現役だった頃は、こうした情報はすべて非常に役に立っただろう。当時は、目に見えるものに頼るしかなかったから」
マルティネスは自身の役割について、大量の分析データを明確で実用的な指導へ絞り込むことだと語っている。そして、データの扱いに長け、マルティネスの洞察を各選手に合わせて調整してくれるサイツァーとマガリャネス両コーチに感謝している。
「考えすぎると、打撃はすごく複雑になってしまう。物事がシンプルな方が、パフォーマンスは上がる。一番シンプルなのは、ボールを見て、打つこと。リトルリーグの選手だった頃に言われたことだよね」
これは若いマリナーズの中心選手たちに響くメッセージだ。レギュラーシーズンで60本塁打を放ったカル・ローリーは、マルティネスの「ボールの後ろにとどまれ」というアドバイスを生かし、フォームを微修正した。
「カルは今、リーグのことをもっとよく理解している。自分のスイングをずっと良く理解している。調整もできる。ホームランを打てる才能は昔からあったが、今はパワーのある良い打者だ。投手がミスをすれば、それをうまく利用してくれる」と、マルティネスは成長を続けるローリーに太鼓判を押す。
マルティネスの落ち着いた明るい口調は、ウィルソン監督のスタイルを反映している。マリナーズはALCSの第3、4戦に敗れたが、ウィルソン監督に動揺はなかった。マルティネスは「われわれのチームは常に調整ができた。メッセージは変わらない」と語る。
マリナーズは今、歴史を作るチャンスを手にしている。まだ見ぬ舞台(ワールドシリーズ)に到達するには、あと1勝が必要だ。ウィルソンが監督室に、マルティネスがバッティングケージに、イチローが外野でユニフォームを着ている。球団の過去と現在がこれほどまでにつながることはあるだろうか。
「必要な要素はすべて揃っている」と、マルティネス。
「選手たちは長い間一緒にプレーしてきた。彼らは十分に成熟しており、トップレベルに到達できるレベルに達している」
球団レジェンドたちの期待に応え、マリナーズは歴史を変えられるだろうか。