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スプリンガーの逆転3ランを生んだ「決断」 両チームの思惑とは

2025.10.22 10:05 Wednesday

「決断」は試合、シリーズ、そしてシーズンの成否を分ける。アメリカン・リーグ優勝決定シリーズ(ALCS)第5戦ではブルージェイズのジョン・シュナイダー監督がマリナーズ打線の中軸に対してブレンドン・リトルを起用。しかし、この継投は失敗に終わり、マリナーズはカル・ローリーとエウヘニオ・スアレスが本塁打を放ち、物語のような瞬間を演出した。

 20日(日本時間21日)に行われた第7戦はブルージェイズが4-3で勝利したが、「勝てばワールドシリーズ進出、負ければ敗退」という一戦で七回のマリナーズの「決断」が試合の流れを一変させた。マリナーズのダン・ウィルソン監督はブルージェイズの強打者ジョージ・スプリンガーに対してエデュアルド・バザードを起用。しかし、スプリンガーが逆転3ランを放ってロジャースセンターを大熱狂させ、ブルージェイズは1993年以来32年ぶりとなるワールドシリーズ進出を決めた。

 では、第7戦の勝敗を分けた「決断」を詳しく見ていこう。

◆状況

 マリナーズは球団史上初のワールドシリーズ進出まであと9アウトに迫っていた。生え抜きのスター選手であるフリオ・ロドリゲスとローリーが本塁打を放ち、3-1とリード。ジョージ・カービーとブライアン・ウーの2人が六回までブルージェイズ打線を1点に抑えていた。

 ウィルソン監督は五回から登板していたウーを七回も続投させることを選択。ブルージェイズは下位打線からの攻撃だったが、ブルージェイズの7~9番打者はALCSの83打席で打率.284、4本塁打、4二塁打、12打点、OPS.838という好成績を残していた。

 先頭のアディソン・バージャーが5球で四球を選んで出塁。アイザイア・カイナー=ファレファは真ん中のスイーパーを弾き返し、センターへのヒットを放った。

 このカイナー=ファレファのヒットについて、ウィルソン監督は「ゴロを打たせることを狙い、その通りになったが、野手の間に飛んでしまった」と語った。

 マリナーズのピート・ウッドワース投手コーチがマウンドを訪れ、一息ついたあと、ウーは9番打者のアンドレス・ヒメネスと対戦。送りバントの可能性が高いと予想され、実際にヒメネスはバントを決めて1死二、三塁となった。

 ここでブルージェイズ打線は上位に回り、リードオフマンのスプリンガーが打席に入った。

◆決断

 スプリンガーに対し、ウィルソン監督はバザードを起用した。レギュラーシーズンでは78回2/3を投げて防御率2.52をマーク。ALCSでも5イニングでわずか1失点と安定したピッチングを見せていた。

 ウィルソン監督は「バザードは1年を通して安定した働きを続けてきた。とても安定感があり、1年を通して素晴らしい仕事をしてくれた。特にこのシリーズでは、彼のピッチングを見て、本当に安心感を覚えた。だから、彼を起用したんだ」とバザードを起用した理由を説明した。

 シーズンで最も重要な試合の最も重要な場面だった。しかし、ウィルソン監督は今季チームで最も優れた投手だったウーを続投させなかった。

 また、ウィルソン監督はチームで最高のリリーフ投手2人、セットアッパーのマット・ブラッシュとクローザーのアンドレス・ムニョスも起用しなかった。

「ウーはいいピッチングをしていたが、そろそろ代え時だと思った。勝ちパターンの投手を起用しようと思い、あのような決断になったんだ」とウィルソン監督は語った。

 ウーは「僕たちは常にマウンドに立ち続けたいと思っている。でも残念ながら、あの場面は2度目のマウンド訪問だったから、投手交代以外の選択肢はなかったんだ」と付け加えた。

 注目すべきは、スプリンガーとムニョスが今年のレギュラーシーズンとポストシーズンで1度も対戦していなかったことだろう。

 ムニョスは「全員が準備万端だった。でも、監督やコーチはあの場面ではあれがベストの選択だと考えた。シーズンを通してずっとそうだったから、僕たちはみんなあの決断を支持しているよ。しかし、今日は上手くいかなかった。判断が間違っていたわけではない。今日はそういう日ではなかったということ。それだけさ」とウィルソン監督の継投に理解を示した。

 スプリンガーはキャリア終盤に差し掛かっているかもしれないが、まだ終わりではない。36歳のスラッガーはレギュラーシーズンで32本塁打を放ち、ポストシーズンの経験も豊富だ。それはマリナーズファンもよく知っているだろう。スプリンガーはポストシーズンの通算78試合で打率.264、23本塁打、47打点、OPS.883を記録している。

 スプリンガーとの勝負を避け、次の左打者ネイサン・ルーカスの打席で併殺打を狙うという考えはあったのだろうか。

「難しい判断だった」とウィルソン監督。「本当に難しい判断だ。逆転のランナーを一塁に置きたくなかった。それに、もしルークスから併殺打を奪えなかった場合、ブラディミール・ゲレーロJr.に回ってしまう。そうしたことも考えて、スプリンガーと勝負することにしたんだ」と説明した。

 スプリンガーは第5戦で右膝に死球を受け、途中交代を強いられた。出場が危ぶまれていた第6戦と第7戦にスタメン出場したものの、本調子ではなく、シリーズを決定づける本塁打を放つ前の8打席で無安打(2四球)に終わっていた。

 シュナイダー監督は相手の策への対応を考えていた。マリナーズがスプリンガーとの勝負を避け、ルーカスに対して左腕ゲーブ・スパイアーをぶつけてくる可能性があると予想した。

 その場合、シュナイダー監督はルーカスに代打を送る必要があっただろう。

「ジョージを敬遠するんじゃないかと思っていた。相手がどちらの戦術を取るか、私は分からなかったんだ。でも、最終的にジョージと勝負してくれたのは、我々にとってよかった」とシュナイダー監督。「重要な打席でジョージに期待しないなんてことはないよ」とスプリンガーへの信頼は変わらなかった。

◆結果

 バザードはスプリンガーに対して2球を投じた。1球目は内角に外れるシンカー。2球目はストライクゾーンへのシンカーだった。スプリンガーによると、三塁走者のバージャーを生還させることだけを考えていたという。

 しかし、スプリンガーはひと振りで試合の状況を一変させた。

 バザードは「シンカーをもう少し内寄りに投げるつもりだったけれど、少しだけ甘く入ってしまった。そこを仕留められたんだ。最高のシンカーを投げたつもりだし、昨日の試合では同じようなシンカーで打ち取ることができた。昨日は内野ゴロ、今日はホームランになってしまった」と振り返った。

 ロジャースセンターは大歓声に包まれた。マリナーズは奈落の底に突き落とされた。ちなみに、マリナーズの守護神ムニョスは1点ビハインドの八回に登板した。

 ウィルソン監督は「決断を下すとき、生きるか死ぬかの決断を迫られることもある。今季のバザードのピッチングを見て、我々は彼なら抑えてくれると思って送り出した。ただ、それが上手くいかなかっただけだ」と語り、自身の決断を後悔するような素振りは見せなかった。


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