ドジャース有利の下馬評を覆す逆転勝利 猛打ブルージェイズが第1戦に勝利
2025.10.25 15:15 Saturday
【ブルージェイズ11-4ドジャース】トロント/ロジャースセンター、10月24日(日本時間25日)
激戦区のア・リーグ東地区で久々に優勝し、第1シードをつかみ取ったにもかかわらず、ブルージェイズに対しては期待だけではなく、疑問も同時に投げかけられていた。
しかし、ブルージェイズは総年俸4億ドル近いスター軍団・ドジャースにも弱点があることを知っていた。そしてその弱点をつく計画を完ぺきに実行し、疑問の声を払拭。44353人が詰め寄せた本拠地ロジャースセンターに熱狂を巻き起こした。
ブルージェイズの強力打線は同点で迎えた六回、ドジャース先発のブレイク・スネルから無死満塁のチャンスを作り、スネルをマウンドから引きずり下ろした。そしてドジャースの弱点であるブルペン陣を攻め立て、一挙9得点の猛攻で、ワールドシリーズ第1戦に11-4で大勝した。
「次の打者にバトンを渡す必要があることを意識しながら、ひたすら打席に立つこと。それが今年の私たちのやり方だ。そして、それを信じていた」と、四回に同点2ラン、そして六回には素晴らしい打席で死球を勝ち取ったドールトン・バーショは語る。
バーショが死球をもぎとって満塁のチャンスを作り、2本のタイムリーと押し出し四球で勝ち越すと、代打アディソン・バージャーが満塁弾で続いた。バージャーの代打満塁弾はワールドシリーズ史上初の快挙。今夜最大のハイライトを飾り、ブルージェイズに対する疑問を覆す一打だった。
最大7戦で行われるポストシーズンのシリーズにおいて、第1戦に勝利したチームは、過去64.8%(127/196)の割合でシリーズを制した。現行のフォーマット(上位シードの本拠で2戦、下位シードの本拠で3戦、上位シードの本拠で2戦)では、第1戦に勝利したチームの67.6%(69/102)がシリーズを制している。そして興味深いことに、ブルージェイズのようにリーグ優勝決定シリーズを7戦かけて制したチームは、ドジャースのようにリーグ優勝決定シリーズをスイープで勝ち上がったチームに対して無敗というデータもある(過去4度)。
シーズン開幕前には史上最高のチームとも評されたドジャースは、ポストシーズンでついにその実力を遺憾無く発揮。特にスネル、山本由伸、タイラー・グラスナウ、大谷翔平からなる先発投手陣はここまで防御率1.40の快投で、わずか1敗でワールドシリーズまで駆け上がってきた。さらに打線も殿堂入り確実と言われるスター打者(大谷、ベッツ、フリーマン)らを擁し、全員が大舞台の戦い方を知り尽くしている。ドジャースはまさに世界一の大本命と言えた。
しかし、もはや分からない。
ブルージェイズ打線は初回からスネルをしつこく攻めた。四回まで無得点に終わったが、初回から29球を投げさせるなど、走者を出し続けた。
2度のサイ・ヤング賞を獲得したスネルは、ブルージェイズと同地区のレイズなどに所属していたキャリア初期は、四球が多く、長いイニングを投げられなかった。しかし、投手として成熟した今、四球は滅多になくなり、特にこの10月は最高の調子を維持している。
しかし、第1戦ではスネルはストライクゾーンに思うように投げ込めず、ブルージェイズ打線はスネルがマウンドから降りるときを虎視眈々と待ち続けた。
「ストライクを投げれば、彼ら(ブルージェイズ打線)は振ってくるだろう・・・。四球も出していたし、打者有利のカウントを作ってしまっていた。もっとコントロール良く投げなければいけなかった」と、スネルは振り返る。
スネルを打線がじっくりと攻め立てる間、ブルージェイズは先発のトレイ・イェサベージが粘りの投球。22歳のイェサベージは二、三回に1点ずつを奪われた。これがまだMLBの舞台で7登板目のイェサベージは、武器とするスプリットの感覚がつかめていなかった。しかし、二回は1死満塁のピンチでパヘスから三振、大谷から内野ゴロでアウトを奪い、出血を最小限にとどめた。
新人の粘りが生き、打線はついにスネルをとらえた。四回、バーショが甘く入った初球をとらえ、同点2ラン。これはスネルにとってレギュラーシーズン中の8月29日以来の被本塁打であり、シーズンを通して初めて左打者から打たれた本塁打だった。
バーショの本塁打は、ブルージェイズにとってワールドシリーズでは32年ぶりの本塁打だった。その1993年のワールドシリーズ第6戦でジョー・カーターが放った、世界一を決める伝説のサヨナラ本塁打は、バーショにとって無関係の出来事ではない。その本塁打をブルージェイズの相手だったフィリーズの捕手として間近で眺めていたのはダレン・ドールトン。バーショの父であるゲイリー・バーショはその後、ドールトンとチームメートとなり、そのファミリーネームにちなんだ名前を自身の息子に付けることになる。
「ちょっと非現実的な瞬間だった。大団円を迎えたって感じだね」と、バーショは語る。
そして、バーショはその同点弾の次の打席で、再び試合の流れを変える。六回、ワールドシリーズから復帰したビシェットが先頭で四球を選び、その後単打でチャンスが広がり、バーショが打席に入る。
バーショは息切れしてきたスネルから8球粘ってフルカウントとし、死球をもぎ取った。バーショは痛みに顔をしかめたが、痛手を負ったのはドジャースの方だっただろう。ドジャースはついにスネルを降板させ、2番手エメット・シーアンを投入。しかし、この継投は失敗した。
続くアーニー・クレメントがシーアンからいきなりタイムリーを放って、この試合初めてのリードをブルージェイズにもたらすと、続く代打ネイサン・ルークスも素晴らしい打席で押し出し四球。さらに9番のアンドレス・ヒメネスもタイムリーで続き、5-2とリードした。
このときには既にロジャースセンターは電話をしたり、瞑想したりするのに向かない場所になっていた。しかし、1死となってから3番手バンダと対したバージャーが、満塁弾を放ったとき、球場は熱狂の渦に巻き込まれた。1993年のワールドシリーズ第6戦でさえ、これより大きな歓声が響き渡ったとは考えにくい。
25歳で初のポストシーズンを戦うバージャーにとって、ワールドシリーズのデビューとしては悪くない結果だった。
「おそらくこれ以上ないほど素晴らしい結果だったよ」、とバージャーは笑顔を見せた。
代打満塁弾はワールドシリーズ史上初の快挙。バージャーの本塁打は歴史に名を刻んだだけではなく、両チームのミスマッチを露呈させた。ドジャースがブルペン陣の層の薄さを完全に露呈した一方、代打攻勢で猛攻をかけたブルージェイズの野手層の厚さが誇示された。ジョン・シュナイダー監督も語る。
「それがわれわれのやり方だ。打線全体、全員が試合に臨む準備を整えてくれて本当に良かった。…あのイニングの打席はボーの四球で始まり、続いて(スネルの)ノックアウト。そして、そのまま調子が続いた。打線全体、全員が本当に素晴らしい打席だった」
バージャーの満塁弾に続き、アレハンドロ・カークも2ランを放ってブルージェイズは大量リードを奪った。七回に大谷が放った2ランは、焼け石に水だった。
大谷が最終回に打席に立ったとき、ブルージェイズファンは「お前は必要ない(We don’t need you)」と大合唱した。大谷が2024年にドジャースと巨額の10年契約を結ぶ前、ブルージェイズは大谷獲得に近づいており、一時は契約間近との報道(誤報)も出たほどだった。その合唱は大谷の打席が終わったあとも「あいつは必要ない(We don’t need him)」と変わって響き続けた。
そしてこの夜、ブルージェイズファンは正しかった。ブルージェイズに必要だったのは、ただ彼らのゲームプランを遂行することだけだった。
