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山本由伸、2試合連続完投の要因とは 多彩な武器とコントロールを活用

2025.10.31 14:08 Friday

 先発投手がポストシーズンで完投するのは、現代では非常に珍しい。2試合連続となるとなおさらだ。

 しかし、完投から中1日で登板可能だったゴムのような右腕を持つ山本由伸は、それを成し遂げた。そしてワールドシリーズ敗退の瀬戸際に立つドジャースは、第6戦でも山本に3度目の快投を期待している。

 3試合連続完投の偉業を成し遂げられるとすれば、それは山本だ。山本が最後にこのような状況に置かれたとき、2023年の日本シリーズの第6戦では14三振、138球の完投劇を見せた。

 ここでは山本のポストシーズンの投球を分析。快投の要因は何だろうか。

山本は2つの決め球を完ぺきにコントロールしている

 山本の得意の変化球、スプリットとカーブはポストシーズンで最高のパフォーマンスを見せている。山本はまさに狙った場所にこの2球種を投げ込んでくる。

 山本のスプリットはストライクゾーンの端(左打者には外角、右打者には内角)に綺麗に集められている。ストライクゾーンの端に投げ込まれると、打者は思わず振りたくなるが、正確に投げ込まれると空振りかゴロに終わる。

 この2試合で、山本が投げたスプリットの56%はエッジゾーン(ストライクゾーンの境界線から野球ボール1球分の幅以内の位置)に投げられた。スプリットはストライクゾーンよりかなり下にボール球を追いかけさせるために投げられることが多いため、この割合は非常に高い。ポール・スキーンズ(パイレーツ)のスプリンカーのように、これほど頻繁にエッジにスプリットを投げる投手はごくわずかだ。山本でさえ、レギュラーシーズン中はエッジにスプリットを投げたのは「わずか」43%だった。

 山本のカーブはそれと少し変わっている。彼のカーブは、カウント序盤にゾーンに投じてストライクを取り、カウントが整うとコーナーからボールゾーンに追いかけさせるために投げられている。

 山本が2試合で投げたカーブの半分以上、58%はストライクゾーンに入っていた。スプリットがエッジゾーンへの投球率が異例に高かったのと同様に、ゾーン内投球率もカーブとしては非常に高い(対照的な例として、山本のチームメイトであるブレイク・スネルを見てみよう。スネルのカーブは打者にボールの上を振らせるため、ほとんどの場合、ゾーン外の低めのカーブを投げている)。

 山本のカーブは鋭い変化ゆえにゾーン内で機能している。カーブの変化量は、横変化が12インチ(30センチ)、縦変化が16インチ(41センチ)あり、平均より横変化が3インチ(8センチ)、縦変化が6インチ(15センチ)も大きい。

 山本のカーブはスプリットと同様に三振とゴロの両方を狙える。三振はブルージェイズのような危険な打線をローリスクに抑える手段であり、ゴロは少ない球数で試合を進める手段となる。

 山本は2度の完投で15三振のうち8三振をカーブとスプリットで奪った。ゴロによるアウトも16度を数えた。山本は今季、ゴロで2桁のアウトを記録した試合が3度あり、そのうち2試合は直近2試合の完投だった。これは主にスプリットとカーブのおかげだった。

山本は配球パターンを変えられる

 ただ、完投するためには、相手打線と少なくとも3巡、場合によっては4巡打ち取らなければならない。そして同じ球種を何度も投げ続けていれば、それは不可能だ。

 現代野球では、対戦回数が増えるほどに投手が不利になっていくことが分かっている。対戦回数が増えるほど、打者は目を慣らし、投手を打てるように鳴っていく。昨今のポストシーズンでは先発投手が早く降板することが当たり前になっている。

 山本はスプリットとカーブに頼り切りにならず、バリエーションを増やしている。ブルワーズとの試合では、

・序盤はフォーシーム、カーブ、スプリット、カットボール、シンカーをバランスよく組み合わせた。
・3巡目は序盤に多用しなかったフォーシーム、スプリット、カーブに頼った。
・試合終盤にはこれまで使っていなかったスライダーを織り交ぜた。
・相手の打順ごとに最も多く投げた球種を変えた。フォーシーム、スプリットをそれぞれ交互に多用。

 一方で、ブルージェイズとの試合では、

・危険なブルージェイズ打線に対し、序盤は最も得意なスプリットを多用。
・2巡目はフォーシーム主体だったが、唯一6球種すべて織り交ぜた。
・3巡目はそれまでほとんど投げなかったカッターを用い、ブルージェイズ打線を驚かせた。
・中盤でスプリットを減らしたあと、終盤でスプリットを復活させた。ただ多用した序盤よりバランスよく投じた。

 山本は打順ごとにレパートリーを組み替えた。第6戦でも同様の戦略で挑むだろう。

予測不可能なストライクとアウトを奪う

 山本の6球種を織り交ぜるスタイルは、多くの球種を織り交ぜる昨今のトレンドと一致しており、有利に働いている。

 6球種をバランスよく織り交ぜれば、試合が進むにつれて打者の目が慣れるという弊害を軽減できる。

 しかし、山本はどんなカウントでもすべての球種を投げられることで、打者をより効果的に攻められている。

 ポストシーズンでは浅いカウントで幅広い球種を投じ、ストライクやアウトを奪うことができている。

 山本は最初から最後まで最高の球種だけで打席を乗り切っているわけではない。カウント序盤からすべての球種を投げ込んでいる。

 例えば、カッターを投げることで、山本は左打者を寄せ付けず、あるいは右打者をカウント序盤に弱い打球をゴロに仕留めることができた。山本は2度の完投でカットボールで6度のゴロアウトを誘った。そのうち5度は打席の最初の2球以内に生まれたものだった。

 山本はカウント序盤から多彩な球を投げるため、フォーシームばかり投げているわけではない。ブルワーズとブルージェイズに対して初球でフォーシームを投じたのは合計9度のみで、打席開始から2球目までのフォーシーム投球率はわずか18%だった。打者はカウント序盤から山本のカッター、カーブ、スプリットといっ​​た球種にも備えなければならないため、フォーシームに狙いを定めることができなくなる。そのため、山本はカウント後半でもフォーシームで相手を仕留めることができるのだ。

 山本はすべての球種をストライクとして投げることができるため、カウントを有利にすることも、素早く打者を打ち取ることもできる。直近2試合では、初球のストライク率は66%、打席の40%以上はカウントが有利な状況で決しており、対戦した64打者のうち、3ボールまでもつれたのはわずか4打者のみだ。

 つまり、山本の勝利の公式とは、9イニング連続で投げても相手に有利に立てる多彩な武器と、それを操るコントロールにある。第6戦でも同様にブルージェイズ打線を抑えられるだろうか。

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