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山本由伸の第6戦の好投を分析 強力打線を2度も抑えた理由

2025.11.1 19:06 Saturday

【ブルージェイズ1-3ドジャース】トロント/ロジャースセンター、10月31日(日本時間11月1日)

 ブルージェイズに王手をかけられて迎えたワールドシリーズ第6戦で、ドジャースは3-1で勝利。光ったのは山本由伸(27)の6回1失点の好投だった。「オプタスタッツ」によれば、ポストシーズンで3先発連続で5安打以下、1失点以下、1四球以下、5三振以上に抑え、そして勝利投手になったのは今ポストシーズンの山本が史上初だという。

 しかし、連続の完投勝利を挙げた過去2試合と比べ、第6戦では走者を背負う場面も多かった。しかし、山本は素晴らしい粘りを見せ、強力ブルージェイズ打線をわずか1失点に封じ、ドジャースをがけっぷちから救った。この日の山本の投球について、データも交えて振り返る。

 第6戦で山本は1巡目からすべての球種を満遍なく投じた。これは完投勝利を挙げた過去2戦とは全く異なる傾向だ。

 過去2戦の完投勝利では、1巡目から4巡目まで中心として組み立てる球種を変え、打順ごとに違う投手のように変貌していた。

 ブルワーズ戦では1巡目を3つのファストボール主体で組み立てた。フォーシームを全球種中最多の33%の割合で投じ、日頃は第4、5球種のカットボールとシンカーも合わせて30%に増やし、速球系だけで63%と力で押した。しかし、2巡目からは得意のスプリットを前面に押し出し、最多の37%を投じた反面、レギュラーシーズン中最も多くの割合で投げたフォーシームは1巡目から17%に半減。カットボールも17%の割合で投げた。

 打者の目が慣れてくる3巡目は再びフォーシームを復活させ、最多の34%に増やし、スプリットとカーブの3球種で攻めるレギュラーシーズン中と同様のスタイルに回帰した。そして試合を締めくくる4巡目ではフォーシームを減らし、決め球のスプリットとカーブだけで70%の割合を占めた。そしてそれまで全く投じていなかったスライダーを12%の割合で投げ始め、一転して変化球主体のスタイルになった。

 一方のブルージェイズとのワールドシリーズ第2戦では、1巡目でスプリットを52%の割合で投じる大胆な配球を見せた。そして2巡目はフォーシームを最多の36%で投じ、カットボール、スライダー、シンカーの割合も増やし、6球種すべてを投げた。

 さらに3巡目になると、投球の主体となったのはなんと33%の割合で投げたカットボールで、一方でスプリットは13%まで減らした。試合の終盤に差し掛かる4巡目では、最も頼れるスプリットを再び増やし、35%の割合で投げた。

 シーズン中は用いなかったカットボール、スライダー、シンカーを多投する打順も作る一方で、ポストシーズンから最も多く投げているスプリットでここぞの場面を乗り切る。それが山本の過去2戦の傾向だった。

 しかし、第6戦では3巡の対戦すべてで6球種をバランスよく投じた。過去2戦において、6球種すべてを用いたのは8巡の対戦のうち、わずか1巡(ブルージェイズ戦の2巡目)しかなかった。

 第6戦における各打順の投球割合を見てみよう。

 1~3巡すべての打順で、山本が最も多投したのはスプリットだった。そして2番目がフォーシーム、3番目がカーブと、主要3球種の投球割合は変わらなかった。

 つまり、山本はこの第6戦では、自分が最も得意とする球種構成で常にブルージェイズ打線に挑み続けていた。ただ、第6戦では1巡目に41球(ブルージェイズとの第2戦では33球、ブルワーズ戦では24球)を要していた。つまり、長いイニングを投げることを狙って配球にバリエーションをつける余裕がなかった可能性も考えられる。しかし、自分が最も得意とするスプリット主体の球種構成で挑む配球は、試合の随所で垣間見えた。

 「困ったらスプリット」。それが第6戦の山本の特徴であり、その狙いはまさに的中していた。山本は走者を背負った場面では51.6%の割合でスプリットを投じていた。そのうち、10度のスイングを誘って空振り5度、ファウルが2度、凡打が3度と、効果は絶大だった。

 象徴的だったのが最後の対戦だった六回2死一、二塁でのドールトン・バーショとの対戦だ。山本は4球すべてスプリットで挑み、見事に空振り三振に抑えた。

山本自身も「前回に続いての対戦だったので、相手の待ち方だったり、どういう球を狙ってくるかとか、多少探りながら投げた配球も多かったです。探りながらになったので、ちょっと迷った時はスプリットを行くことが多かったです。結果的に最少失点で抑えられたので良かったと思います」と振り返った。

 そして、スプリット主体のスタイルを貫いたこと以外で印象的だったのは、初球の入りだ。山本は初球から仕掛ける積極打法で戦局を変えてきたブルージェイズ打線に対し、語った通り「探りながら」も、大胆に初球から攻めた。

 この第6戦で山本は初球ストライク率74%を記録。これは過去2度の完投勝利を挙げた試合よりも高く(ブルワーズ戦が69%、ブルージェイズ戦が63%)、レギュラーシーズンと合わせた今季の全35先発の中でも3番目に高い割合だった。

 とはいえ、山本は第6戦でストライク先行で投げられたわけではなかった。ストライク率は66%と、70%を超えた過去2戦と比べて低下。過去2戦では3ボールまでカウントがもつれたのはわずか4打席しかなかったが、第6戦だけでも6打席も3ボールまでもつれた。特に、見逃しストライクを取る大きな武器となっていたカーブが18球投げて見逃しストライク3度、空振りもわずか1度とやや精細を欠いていたのが響いていたかもしれない。

 しかし、コマンドが過去2戦に比べて低下していたからこそ、初球のストライクがもたらした意味は大きかったと言えるだろう。

 山本は積極的なブルージェイズ打線に対し、初球ストライクを奪う上で慎重を期していた。ブルージェイズと対戦した第2、6戦では、打席の初球で6つの球種すべてを用いた。レギュラーシーズン中、打席の初球で6球種すべてを用いたのは、30先発中5先発にとどまる。ブルワーズ戦でも初球では得意のスプリットとカーブを多投し、実に75%をその2球種だけで占めていた。

 しかし、ブルージェイズとの2戦では、より読まれにくいように予想外の球種を投じる割合が増加。スプリットとカーブを初球に投じた割合は50%に、レギュラーシーズン中は最も初球に多く投じたフォーシームも18%に抑えた一方で、主要3球種以外の3球種(カットボール、シンカー、スライダー)を30%に増やした。

 このポストシーズンにおいてブルージェイズ打線と対した山本以外の先発投手の防御率は、実に9.00(53回、53自責点)に上る。一方で山本の防御率は1.20で、ブルージェイズと対戦した12人の先発投手の中でも最も低く、ブルージェイズ打線を手玉に取った唯一の投手だったと言える。

 山本の好投に救われたドジャースが第7戦を制して連覇を成し遂げれば、ワールドシリーズMVPが誰かという議論はそう長くかからないはずだ。山本はこのポストシーズンでの活躍で、タリック・スクーバル(タイガース)やポール・スキーンズ(パイレーツ)といった球界トップクラスの投手に引けを取らない実力の持ち主であることを完全に証明したように映る。


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