今永昇太ら4選手がQO受諾 この決断がFA市場に与える影響は?
2025.11.20 10:05 Thursday
昨オフまでにクオリファイングオファー(QO)の提示を受けた144人のうち、受諾したのはわずか14人だけだった。ところが、今オフは提示を受けた13人のうち、トレント・グリシャム(ヤンキース)、ブランドン・ウッドラフ(ブルワーズ)、今永昇太(カブス)、グレイバー・トーレス(タイガース)の4人がQOを受諾して残留を選択。この状況に至った理由、そしてフリーエージェント(FA)市場に与える影響について考察していく。
【1】これほど多くの選手がQOを受諾したのはなぜか?
4人の選手はそれぞれ異なる理由でQOを受諾した。
トーレスは今季タイガースでオールスターに選出されたが、後半戦は苦戦し、シーズン最後の3カ月では打率.229、7本塁打に終わった。QOの対象者としてFA市場に出た場合、価値が下落してしまう(獲得したチームはドラフト指名権を失うため)。来オフはQOの対象外としてFA市場に出ることができる。
グリシャムは今季ヤンキースで自己最高のシーズンを過ごし、本塁打(34)、打点(74)、OPS(.812)などの各部門でキャリアハイを更新した。しかし、実績が不足しており、他球団がドラフト指名権を犠牲にしてまで獲得に動くほどの魅力はなかったかもしれない。
今永の契約状況は、今オフで最も興味深い事項の1つだった。カブスは3年5700万ドル(約85億5000万円)の球団オプションを破棄し、今永も1年1500万ドル(約22億5000万ドル)の選手オプションを行使せず、FAに。QOを受諾することで、より高額な年俸を受け取ることができ、ドラフト指名権の犠牲を伴う契約を強制されることもない。最終12先発で防御率5.17と結果を残せなかったことも、今回の決断に影響を与えた可能性がある。
ウッドラフは唯一在籍経験のあるチームに残留する。今季、戦列復帰後は12先発で7勝2敗、防御率3.20の好成績をマークしたが、9月に広背筋を痛めてシーズン終了。近年はケガが増えており、FA市場で複数年契約を得られるかどうかは不透明だった。
【2】QOを受諾した4人のうち、最大のサプライズは誰か?
ウッドラフだ。この右腕は2024年に受けた手術後、肩の状態が良好であることを証明した。しかし、今オフのFA市場は先発投手の層が厚いため、1年2202万5000ドル(約33億円)のQOを受け入れることにしたのだろう(ウッドラフは選手オプションを行使しなかった際のバイアウト1000万ドルも含め、2026年は3202万5000ドル=約48億円が保証される)。今季の成績は良く、三振率と四球率は上位10%にランクインしていたが、その一方で球速が低下。速球の平均は、手術前の96マイル(約154キロ)から今季は93マイル(約150キロ)まで落ちていた。
【3】QOを受諾した4人のうち、最も予想通りだったのは誰か?
グリシャムだ。今季の成績は良かったが、キャリア全体と比較すると、異例の成績だった。34本塁打はキャリアハイ(2022年の17本塁打)の2倍となり、OPS(.812)とOPS+(125)は短縮シーズンの2020年以降では最高。162試合制のシーズンでは圧倒的な自己ベストだった。皮肉なことに、グリシャムは打者有利と言われるヤンキースタジアムで苦戦(70試合で打率.195、13本塁打)していた(敵地では73試合で打率.269、21本塁打)が、来季もヤンキースに残り、FA市場に出ていく前に、今季の再現をする必要がある。
業界全体の印象としては、グリシャムがQOの金額(2202万5000ドル=約33億円)に近い契約を得られる可能性はあったが、ドラフト指名権を犠牲にしなければならないことを考えると、それに近い年俸で複数年契約を結ぶのは難しいとみられていた。
【4】4人が残留したことで、最も恩恵を受けるFA選手は誰か?
トップクラスの先発投手(ディラン・シース、今井達也、マイケル・キング、フランバー・バルデス、レンジャー・スアレス、ザック・ギャレン)はQOの動向にかかわらず、大型契約を得られる見込みだったが、ウッドラフと今永が残留を選択したことにより、ほかの先発投手の価値も上がる可能性がある。たとえば、メリル・ケリー、クリス・バシット、タイラー・マーリー、ザック・リテルといった「Bランク」の先発投手は、新たな契約を結ぶうえで競争相手が2人減ることになる。
また、グリシャムがQOを受諾したことで、FA市場でトップの中堅手(コディ・ベリンジャーを中堅手としてカウントするなら、2番目の中堅手)が市場から消えたことになる。これにより、ハリソン・ベイダーやセドリック・マリンズといったFA選手も恩恵を受けるだろう。
【5】選手がQOを受諾した4チームのうち、最も満足しているチームは?
カブスかブルワーズだ。両チームとも先発投手の補強に動くと予想されていた。カブスは今永復帰後も、マシュー・ボイド、ケイド・ホートン、ジェイムソン・タイオン、コリン・レイらが形成する先発投手陣をさらに強化する可能性がある。ブルワーズはウッドラフ、フレディ・ペラルタ、ジェイコブ・ミジオロウスキーが三本柱となり、クイン・プリースター、チャド・パトリック、トバイアス・マイヤーズ、ロバート・ガッサー、ローガン・ヘンダーソンらが残り2枠を争う状況だ。ウッドラフの残留により、ペラルタがトレードされる可能性も出てきたが、ペラルタの来季年俸はわずか800万ドル(約12億円)。球界でトップレベルに手頃な価格のエース投手となっている。
