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「MVPを受賞していない最高の選手」がホセ・ラミレスである理由

2025.11.21 10:48 Friday

 ホセ・ラミレス(ガーディアンズ)は球界で最高の選手の1人だ。これまでのキャリアを見れば、疑いの余地はないだろう。オールスターに7度選出され、シルバースラッガー賞も6度受賞している。

 しかし、1つだけ欠けているトロフィーがある。それはMVPだ。

 はっきりさせておきたいのは、それがラミレス自身のせいではないということだ。ラミレスはキャリアを通して、スーパースターがひしめく時代のアメリカン・リーグでプレーしてきた。MVPを受賞していないからといって、ラミレスの輝かしい実績が否定されるわけではない。むしろ、この時代のア・リーグで毎年のようにMVP争いをしてきたという事実は、ラミレスがいかに素晴らしい選手であるかを強調している。

 輝かしいキャリアを誇るラミレスは、MVP投票の歴史において、異例のポジションにいる。これまでの投票結果に基づくと、全米野球記者協会(BBWAA)によるMVP投票が始まった1931年以降にデビューし、MVPを1度も受賞していない選手の中で、ラミレスは最高の選手であるという主張をすることもできる。なお、この記事で紹介する記録や成績はすべて、MVP投票が開始された1931年以降のものである。

 それでは、MLBの公式記録を扱うエライアス・スポーツ・ビューロー社の助けを借りて、いろいろ調べていこう。

【1】MVPを受賞していない最高の選手

 ラミレスは今季のMVP投票でアーロン・ジャッジ(ヤンキース)とカル・ローリー(マリナーズ)に次ぐ3位だった。MVP投票で5位以内にランクインするのは6度目、3位以内は4度目。多すぎるように聞こえるだろう。実際、かなり多いのだ。

 5位以内が6度というのは、MVP受賞経験がない選手の中では、エディ・マレーと並んで最多回数だ。また、現役選手の中ではマイク・トラウト(エンゼルス)の9度に続いて2番目に多い。ただし、トラウトは9度のうち3度、MVPを受賞している。

 また、3位以内が4度というのは、MVP受賞経験がない選手の中では、単独トップの回数となっている。実は、MVP投票が開始された1931年以降、これほど受賞に近づきながら1度も受賞できなかった選手はほかにいないのだ。

 この事実を数値化するもう1つの方法は「MVPシェア」を見ることだ。「MVPシェア」とは、1年ごとにMVP投票で獲得できる最大ポイントに対して、どれだけの割合でポイントを獲得したかを算出し、それを積み上げていったものである。たとえば、満票なら100%となり、「MVPシェア」は1とカウントされる。満票の半分のポイントを獲得したなら50%で、「MVPシェア」は0.5となる。

 ラミレスの通算の「MVPシェア」は3.61。これはMVPを1度も受賞していない選手の中で最高の数値だ。つまり、ラミレスは「MVPを受賞していない最高の選手」、言い換えれば、「MVPを1度も受賞していない中で最も得票した選手」なのだ。通算3.61は、1931年以降にデビューした選手の中でトップ25に入っている。

【2】なぜこんなことが起こり続けているのか

 これまで述べてきた通り、ラミレスは傑出した選手だ。今季はキャリア2度目となる30本塁打&40盗塁を達成。複数回達成したのは、ほかにボビー・ボンズ(4度)、バリー・ボンズ、アルフォンゾ・ソリアーノの3人だけである。2年連続の達成は、ボビー・ボンズとラミレスだけだ。

 これはラミレスの凄さの一例に過ぎない。ベースボール・リファレンス版のWARでは、2017年以降に6度も5.5以上を記録しており、これはメジャー全体で2番目。ラミレスより多いのはジャッジ(7度)だけである。そして、ジャッジはMVPを3度受賞している。ラミレスがなぜMVPを受賞できないのか、という答えにつながっていくだろう。

 ラミレスは2017年、18年、20年、22年、24年、25年にMVP投票で5位以内に入っている。では、これらのシーズンにおける、ア・リーグのMVP投票を振り返ってみよう。

 2017年はWAR8.1を記録したホセ・アルトゥーベ(受賞)とジャッジに次ぐ3位に終わった。2018年はムーキー・ベッツがWAR10.7を記録して受賞。これは野手では2002年のバリー・ボンズ(11.7)以来の高水準であり、ラミレスはベッツ、トラウトに次ぐ3位どまりだった。

 短縮シーズンの2020年、ラミレスはリーグトップの長打率とメジャー最多の打点を記録したホセ・アブレイユに次ぐ2位に終わった。

 2022年はジャッジがシーズン本塁打のア・リーグ記録を更新し、WAR10.8をマークして受賞。大谷翔平も投打にわたる活躍を見せ、2位にランクインした。この年、ラミレスは4位だった。

 2024年はジャッジが再びWAR10.8を記録し、満票で受賞。ラミレスは5位に終わった。2017年以降、10以上のWARがメジャーで3度記録されたが、それらはいずれもア・リーグで、なおかつラミレスがMVP投票の5位以内にランクインしたシーズンだった。

 そして、今季はジャッジとローリーによる激しい争いが繰り広げられ、ジャッジが3度目の受賞を果たした。

 ラミレスはMVP投票の5位以内に入った6シーズンで以下のような成績を残している。

・長打431本は、ほかのどの選手より21本以上多い
・1733塁打はジャッジ(1769)に次いで2位
・563打点はジャッジ(592)に次いで2位
・166盗塁はトレイ・ターナー(183)に次いで2位
・430三振は110本塁打以上の37選手の中で最少(ラミレスは183本塁打)
・OPS.906は2500打席以上で6位(トップ5はジャッジ、トラウト、大谷、フアン・ソト、フレディ・フリーマン)

 各シーズンのMVP受賞者たちも素晴らしい活躍を見せたが、ラミレスも継続的にトップクラスの成績を残していたのだ。

【3】ラミレスの今後は?

 これまでに紹介してきた数字について、ラミレスはMVPを受賞した瞬間に対象外となる。「MVPを受賞していない最高の選手」という肩書も消滅する。そして、2026年シーズンもラミレスは、ジャッジを除外すれば、ア・リーグMVPの最有力候補の1人だ。

 もしラミレスが将来MVPを受賞すれば、初受賞までの「5位以内の回数」と「3位以内の回数」は歴代最多を更新することになる。現在の初受賞前の5位以内の最多回数はミゲル・カブレラとルー・ゲーリッグの5度で、ラミレスはすでに6度だ。また、初受賞前の3位以内の最多回数はポール・ゴールドシュミット、アルバート・プホルス、アレックス・ロドリゲス、ウィリー・スタージェルの3度で、ラミレスはすでに4度である。

 ラミレスにいつか歓喜の瞬間が訪れることを期待したい。


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