ポスティング移籍を目指す日本人4選手をめぐる市場について分析
2025.11.22 11:49 Saturday
村上宗隆と岡本和真の両内野手に、今井達也と髙橋光成の両投手が加わり、今オフは4人の日本人選手がポスティング制度によるメジャー移籍を目指している。この4選手をめぐる市場について分析・解説していく。
【1】村上と岡本はどちらも内野の両コーナーを守る選手で、パワーは抜群だが、守備力には疑問符がつく。しかし、両者には多くの違いもある。同じようなチームがこの両選手に興味を示すことになるのか?
両選手に興味を持つチームがあるのは間違いないと思うが、村上と岡本には明らかに違いがあり、それが獲得を狙うチームのタイプに影響を与える可能性はあるだろう。
30歳のシーズンを迎える岡本は、2人のスラッガーのプレーを見たことがある一部のスカウトによると、より完成度の高い選手だ。一方、村上は某球団幹部が「驚異的なパワー」と語ったほどの才能を持つが、まだ発展途上だ。村上は空振りが多く、メジャー移籍後はスイングを変える必要があるかもしれない。しかし、25歳の村上が高い将来性を持っていることは否定できない。
より大きなリスクを負い、大きな可能性に賭ける意思のあるチームは、最終的に村上により大きな関心を持つことになるかもしれない。その一方で、スカウトの中には、岡本のほうがより洗練された打者であり、守備の汎用性も村上より優れていると評価する者もいる。岡本は、より完成度の高い選手を求めている「今、勝たなければならない」チームのターゲットとなるだろう。あるスカウトは、最初の2~3シーズンは岡本のほうが好成績を残すと考えている。しかし、村上は長期契約を結び、スイングの欠点を修正し、非常に生産性の高い選手になる可能性を秘めている。
【2】層が厚い今オフのフリーエージェント(FA)先発投手市場において、今井と髙橋はどのような立ち位置になるのか?
今井はFA市場の先発投手のトップ4~5に入るだろう。「間違いない先発投手」として、獲得を狙うチームが巨額の投資をする可能性は高い。2年前に山本由伸が結んだような契約にはならないと思われるが、ディラン・シース、フランバー・バルデス、マイケル・キング、レンジャー・スアレスに匹敵する人気を集める選手となるだろう。さらに、これらの4投手とは異なり、今井はクオリファイングオファーの対象外だ。
今井と同じ右腕の髙橋は、獲得するチームにとって、より柔軟な起用が可能な投手だ。先発もできるし、ショートリリーフやロングリリーフで起用することもできる。関係者によると、髙橋は最新の分析技術に強い興味を持っており、ドライブライン・ベースボールのような米国の投手育成システムも活用しているという。29歳のシーズンを迎える髙橋は、今井より1歳だけ年上だが、今季防御率1.92をマークした今井よりも短い契約となるだろう。髙橋は移籍するチームに柔軟性をもたらし、様々な方法で投手陣を助ける可能性がある。
【3】ドジャースとマリナーズは明らかに日本人選手の獲得で大きな成功を収めており、日本市場において豊富な実績を持つ数少ないチームのうちの2つだ。これまで日本人選手の獲得にそれほど積極的でなかったチームが今オフ、積極的に動く可能性はあるのか?
この2チームを同列に扱うのは興味深い。なぜなら、マリナーズには日本人選手として初めてアメリカ野球殿堂入りを果たしたイチローがいるにもかかわらず、ここ数年は日本人スター選手を獲得してこなかったからだ。
イチローを除き、マリナーズで最も成功を収めた日本人選手を挙げていくと、まずは佐々木主浩だ。2000年に新人王を受賞し、4年間で2度のオールスター選出を果たした。菊池雄星も3年契約の最終年にオールスター選出を果たし、その後FAでブルージェイズへ移籍した。岩隈久志も2013年にオールスターに選ばれており、長谷川滋利はメジャー生活最後の4年間をマリナーズで過ごし、オールスターに1度選出された。
イチローの存在もあり、マリナーズは日本人スター選手を獲得する有力候補に挙げられることも多いが、実際はその分野において、それほど積極的なチームではない。
ドジャースはどうか。確かに積極的だ。この2年間で山本と佐々木朗希を獲得し、大谷翔平が2018年にメジャーリーグに移籍した際は契約できなかったものの、エンゼルスで6シーズンを過ごしたあと、FAで超大型契約を結び、大谷は移籍後2年連続でワールドシリーズ制覇に貢献した。
この3選手は今季のワールドシリーズ制覇において、重要な役割を果たしたが、ドジャースが日本人スター選手と契約してきた歴史は数十年にわたっている。野茂英雄、黒田博樹、前田健太といった選手たちだ。ドジャースが今オフ、新たな日本人選手の獲得に動いたとしても、全く驚きではない。
ヤンキースは東海岸のチームの中で、日本人選手の獲得で大きな成功を収めてきた数少ないチームの1つだ。2009年のワールドシリーズMVPに輝いた松井秀喜がその筆頭だろう。田中将大も7年間、ニューヨークで堅実な活躍を見せ、黒田も3年間活躍した。ヤンキースが今井、そして2人のスラッガーのうちの1人の獲得に動くとしても驚きではない。
ブルージェイズは大谷と山本の獲得を目指し、積極的にアプローチしていた。よって、今オフの4選手のうち、1人以上の獲得を目指す可能性がある。ある関係者は「ブルージェイズを(獲得レースから)除外する理由はない」と語っている。
もう1つ注目すべきチームはジャイアンツだ。史上初の日本人メジャーリーガー(1964年の村上雅則)を誕生させたチームだが、ここ数十年は有力な日本人選手を獲得していない。しかし、ザック・ミナシアンGMは山本や佐々木のような有力選手をスカウトするために、何度も日本を訪れており、今オフ移籍を目指す4選手のことも熟知している。ある関係者は「ジャイアンツは4人のうち誰かを獲得するだろう」と予想している。
【4】4選手の交渉期間はいずれも12月下旬まで、あるいは1月初旬までだ。この4選手の契約が決まるまで待つことは、市場全体の動きにどんな影響を与えるのか?
毎年、市場はこうしたポスティング移籍を目指す選手を中心に動いていくが、大谷と佐々木の場合は全く事情が異なっていた。この2人はFA市場で最高額を提示したチームではなく、国際アマチュアFA選手と契約するボーナスプールの中から契約金が支払われるため、全てのチームに獲得のチャンスがあり、まさに「一生に1度」のユニコーンを手に入れるような争奪戦だった。一方、山本は当時、FA市場で最高の投手だったため、残りの先発投手は山本の契約が決まるのを待つ必要があった。
今オフ移籍を目指す4選手は、いずれもそのエリア(ポジション)でナンバーワンの選手ではない。トップ選手ではないため、ほかにも有力な選択肢が市場に残っている場合、この4選手は各チームが「選手獲得のプレッシャーをそれほど感じていない時期」に契約を決めなければならないかもしれない。一方、ウィンターミーティングくらいの時期に大物FA選手の契約が決まり始めれば、各チームは戦力補強の選択肢が少なくなり、日本人4選手の獲得に積極的になるだろう(=交渉期限日を待たず、早めに契約が決まる可能性もあるということ)。
有力なFA選手が多く市場に残っている場合、各チームはほかの選択肢も吟味しながら獲得する選手を決めるため、市場の動きに合わせ、日本人4選手は交渉期限日まで待つ必要があるかもしれない。
