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ブランドン・ニモとマーカス・セミエンのトレードを多角的に分析

2025.11.24 12:00 Monday

 23日(日本時間24日)、2026年以降に向けたロースターの再編を目指すメッツとレンジャーズは、それぞれ長期契約を結んでいるブランドン・ニモとマーカス・セミエンの1対1のトレードという大きな動きに出た。外野手のニモはレンジャーズ、二塁手のセミエンはメッツへ移籍することになる(球団からの正式発表はまだ行われていない)。

 32歳のニモは、2022年12月に8年1億6200万ドル(約243億円)でメッツと再契約を結び、その契約にはトレード拒否権が含まれていたが、今回のトレードにあたり、拒否権を行使しないことで合意。一方、35歳のセミエンは、2021年12月に7年1億7500万ドル(約262億5000万円)でレンジャーズと契約していた。

◆トレードの詳細
メッツ獲得:マーカス・セミエン(二塁手)
レンジャーズ獲得:ブランドン・ニモ(外野手)

 ここではMLB.comのエキスパートたちによる、多角的な分析を紹介していく。

【1】メッツにとって今回のトレードが理にかなっている理由
(メッツ担当記者:アンソニー・ディコモ)

 ニモはメッツ一筋で10年間プレーし、その大半は生産的なシーズンだった。8年契約を結んだことにより、ニモはメッツ一筋のままキャリアを終えるはずだったが、今回のトレードにより、ニモの「メッツ時代」は突如として幕を閉じることになった。ニモはレンジャーズでメッツ時代の同僚であるジェイコブ・デグロムと合流し、メッツはセミエン獲得により、ロースターの柔軟性を高めることになる。

 球界有数の守備力を持つ二塁手のセミエンは、攻撃力の高い内野手としても知られており、2023年には29本塁打、100打点、14盗塁、OPS.826、WAR7.7の好成績を残してア・リーグMVP投票3位となった。しかし、35歳となったセミエンは、過去2シーズンは2023年ほどの活躍を見せていない。ただし、今季ゴールドグラブ賞を受賞するなど、依然としてチームに貢献できる選手であり続けている。

 セミエンの存在は何よりも、メッツの柔軟性を大幅に高めるとともに、デービッド・スターンズ編成本部長が今オフの目標として掲げている「守備力アップ」の達成にも貢献する。来季開幕時点で33歳のニモは、キャリアワーストレベルの守備成績を残したばかりだ。メッツはジェフ・マクニールや有望株カーソン・ベンジを左翼手で起用する、あるいはカイル・タッカーやコディ・ベリンジャーといった大物FA外野手を獲得することで、ニモの穴を埋めることができる。関係者によると、メッツはこれら全ての選択肢を検討しているようだ。

【2】レンジャーズにとって今回のトレードが理にかなっている理由
(レンジャーズ担当記者:ケネディ・ランドリー)

 セミエンと遊撃手コリー・シーガーは、ともに2022年シーズンからレンジャーズに加入し、2023年には球団史上初のワールドシリーズ制覇に大きく貢献した。しかし、それ以降は思うような成果を得ることができていない。35歳のセミエンは、127試合に出場して打率.230、OPS.669という期待外れのシーズンを終えたばかりだ。15本塁打は、短縮シーズンを除くと、2018年以降で最少だった。

 一方、32歳のニモは本塁打(25)、打点(92)、ハードヒット率(50.2%)の各部門で自己最高の数字をマーク。wRC+(92)がメジャー25位、長打率(.381)が同26位、得点(684)が同22位と低迷したレンジャーズ打線の巻き返しに貢献するはずだ。

 レンジャーズは、二塁の穴を埋める選択肢として、ユーティリティプレーヤーのジョシュ・スミス、エゼキエル・デュラン、サム・ハガーティらがいる。スミスは2024年にユーティリティ部門でシルバースラッガー賞に輝いた選手だ。外野はワイアット・ラングフォードとエバン・カーターという若手スター候補がいるものの、それ以外は層が薄かった。

【3】さらに深掘り
(アナリスト:マイク・ペトリエロ)

 知名度の観点から言えば、今回の取引はビッグトレードだ。MVP投票のトップ3に3度ランクインしたことがあるセミエンがメッツ、メッツの球団組織で14シーズンを過ごし、球界で最も過小評価されてきた選手の1人であるニモがレンジャーズへ移籍することになった。

 では、短期的な価値を見ると、どうだろうか。両選手の知名度から想像されるほど、大きなトレードではないかもしれない。35歳のセミエンは、自己ワーストに近い出塁率.305に終わり、長打率.364は自己ワーストで、規定打席到達者の中ではワースト10人に入る数字だった。3月に33歳となるニモは、25本塁打、92打点と見た目の数字は優秀だが、その裏では懸念すべき衰えの兆候が見え始めている。四球率が大幅に低下しただけでなく、長年にわたって高いレベルを維持してきた走塁や守備の指標も平均をわずかに下回る水準まで落ち込んだ。

 重要なのは、期待外れのシーズンを過ごした両チームの打線に、新たな風を吹き込むことだろう。メッツは守備力アップを目指している。セミエンはかつてのようなスーパースター級の守備力はないものの、今季はOAA(Outs Above Average:平均よりどれだけ多くアウトを奪ったかを表す守備指標)+7を記録し、依然として優秀な二塁手だ。一方、レンジャーズは得点力アップを目指している。ニモはセミエンより打撃力があり、年齢も若い。また、メッツにとっては、タッカーやベリンジャーのために外野のポジションを空けるというメリットもあるかもしれない。二塁が固定されたため、今度はマクニール、ブレット・ベイティ、ロニー・マウリシオらのトレードが検討される可能性もある。

 より高度な指標も見ると、ニモとセミエンは見た目の数字以上に、近い成績を残している打者だった。ニモはより多くの打点を記録したが、ランナーがいる状況での打席が44回も多く、これが打点増加の一因となっている。実際、ランナーがいる状況では、ニモよりもセミエンのほうが優れた打者だった。また、レンジャーズは左打者のパワーを改善したいという望みを叶えることもできた。今季レンジャーズより数字が悪かったのは3チームだけ。ニモはこの課題克服に貢献するはずだ。特にアドリス・ガルシアが不振の2シーズンを過ごしたあと、ノンテンダーFAとなったため、外野手の補強が急務だった。

 結局のところ、トレードの成否は両選手が新しいチームにフィットできるかどうかだ。両チームとも今季の戦力を来季にそのまま持ち越すことはできないし、両選手とも以前のようなスター級の働きはできていない。つまり、今回のトレードは似たような状況にある大物選手同士、似たような状況の大型契約同士を交換したものである。ニモはセミエンより2歳若いものの、契約も2年長く残っている。要するに、メッツにとって、セミエンの3年を取るか、ニモの5年を取るかという選択だったのだ。ニモは契約が終わることには指名打者になっているかもしれない。しかし、メッツにはすでにフアン・ソトがおり、ピート・アロンソと再契約を結ぶ可能性もある。そうした状況の中、ニモに指名打者のポジションを与えることはできない。もちろん、ニモを獲得したレンジャーズのほうが得をする可能性もある。ニモ不在で戦力不足となった2029年と2030年のメッツに対し、レンジャーズが高みの見物をしている可能性もあるだろう。

【4】知っておくべきデータ
(MLB.comリサーチチーム)

 セミエンは今季、期待されたほどの打撃成績を残すことができなかったものの、守備は依然として優秀だった。OAAは+7、フィールディングランバリュー(守備での得点貢献度)も+6を記録し、キャリア2度目のゴールドグラブ賞に輝いた。

 フィールディングランバリューは、スタットキャストが測定・算出する様々な守備指標を全て統合し、選手個人の守備パフォーマンスを評価する指標である。運用が開始された2023年以降、セミエンは+32を記録しており、全内野手の中でロイヤルズの遊撃手ボビー・ウィットJr.(+41)、ブルージェイズの二塁手アンドレス・ヒメネス(+39)、レッズの三塁手キブライアン・ヘイズ(+37)に次ぐ4位にランクインしている。

 対照的に、メッツの内野陣は今季-7に終わり、これはメジャー全体で10番目に悪い数字だった。セミエンの加入は、内野の守備力向上に大きく寄与するはずだ。


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