マリナーズとナショナルズのトレードを様々な角度から徹底分析
2025.12.8 09:53 Monday
マリナーズとナショナルズはともに戦力アップを目的として6日(日本時間7日)にトレードを成立させた。ナショナルズはリリーフ左腕のホゼ・A・フェレアをマリナーズへ放出。その対価として、MLBパイプラインでメジャー全体42位の有望株と評価されているハリー・フォード、マイナー右腕のアイザック・ライオンを獲得した。
マリナーズは7日(同8日)にフロリダ州オーランドで始まるウィンターミーティングに向けて、ブルペンの補強を最優先事項としていた。フリーエージェント(FA)市場ではなく、トレードを通してブルペンの補強を行ったのは特に驚くべきことではない。25歳のフェレアがFAになるのは2029年シーズン終了後であり、マリナーズはフェレアをあと4シーズン保有できる。
一方、ナショナルズが有望株捕手のフォードを獲得したことは、チームが現在の正捕手であるキーバート・ルイーズに対してどのような見通しを持っているかを示すものであると思われる。ルイーズは8年5000万ドル(約75億円)の長期契約を結んでおり、来季は8年契約の4年目。しかし、2024年以降のOPS+は72(平均100、ルイーズは平均を28%下回っている)にとどまっており、フォード獲得で捕手のアップグレードを狙っているのだろう。
◆トレードの詳細
マリナーズ獲得:左腕ホゼ・A・フェレア
ナショナルズ獲得:捕手ハリー・フォード、右腕アイザック・ライオン
◆マリナーズにとって何を意味するか
(マリナーズ担当:ダニエル・クレーマー)
今回のトレードは一見、マリナーズのフロントオフィスによる奇妙な決断であるように思われる。なぜなら、フォードは長い間、マリナーズの長期的プランの重要なピースと考えられてきただけでなく、ベテラン控え捕手のミッチ・ガーバーがFAとなったため、マリナーズのロースター40人枠にはカル・ローリーとフォードしか捕手がいなかったからだ。
しかし、マリナーズが今回のトレードに喜んで応じたという事実は、フェレアをどれほど高く評価しているかを示していると言えるだろう。また、控え捕手については、ほかの手段で簡単に埋められると考えているのかもしれない。
マリナーズは今オフの最優先事項だったジョシュ・ネイラーとの再契約(5年9250万ドル=約138億7500万円)を済ませたあと、ゲーブ・スパイアーに次ぐリリーフ左腕の補強が重要課題となっていた。今後はフォードに代わる控え捕手だけでなく、打撃力のある内野手、さらにリリーフ右腕の補強を目指すことになりそうだ。
◆ナショナルズにとって何を意味するのか
(ナショナルズ担当:ジェシカ・カメラート)
今回の取引は、新しく就任したポール・トボーニ編成本部長による初めてのトレードとなった。少なくとも2031年シーズンまで保有できるフォードを獲得したことにより、先行き不透明だったナショナルズの捕手陣に新たな風が吹くことになる。
2023年のスプリングトレーニング期間中に8年契約を結んだフォードは今季、脳震盪で戦列を離れた。ナショナルズはルイーズがスプリングトレーニングに間に合うと考えているものの、万全の状態でプレーできるかどうかはまだ分からない。なお、先月の時点で控え捕手のライリー・アダムスとの年俸調停を回避し、1年契約を結んでいる。
長期間にわたって活躍できる可能性のある捕手を獲得した一方、ナショナルズのブルペンには大きな疑問符がつくことになった。フェレアは今季途中にカイル・フィネガンがタイガースへトレードされたあと、クローザーの役割を引き継いでいたからだ。来季は右腕コール・ヘンリーのクローザー抜擢も考えられるが、今オフ中にクローザー候補の投手を獲得する可能性もあるだろう。
◆有望株専門家による分析
(MLBパイプライン:サム・ダイクストラ)
今オフ、フォードの名前はトレードの噂の中で何度も挙がっていた。「移籍市場の影響を受ける可能性がある有望株」といった記事や「大型トレードを成立させることが可能なファーム組織」について扱ったポッドキャストの中でもフォードの名前が出てきた。そして6日(同7日)、その答えが出た。ローリーという不動の正捕手がいる以上、こうなる運命だったのだ。
来年2月に23歳の誕生日を迎えるフォードは、シーズン60本塁打を記録するような正捕手がいなければ、2025年シーズンにメジャーでより多くの出場機会を得ていただろう。マイナー3Aタコマでは97試合に出場し、打率.283、16本塁打(自己最多)、出塁率.408、長打率.460、OPS.868を記録。ボール球に手を出す割合は21%しかなく、今季のメジャーに当てはめると上位9%に入る好成績だった。この辛抱強さが打撃力の向上につながり、打球速度も平均レベルから平均をやや上回るレベルまで上昇している。走塁面では数字を落とした(2024年の35盗塁から今季は7盗塁に激減)が、身体能力の高さは健在。メジャーの正捕手を務められるだけの守備力も持ち合わせている。
では、なぜマリナーズはこのタイミングでフォードを放出したのか。フェレアを獲得したかったという理由はもちろんだが、有望株ランキング全体トップ100にランクインしているマリナーズの8選手のうち、フォードは明らかにメジャーでの出場機会をブロックされた存在だった。また、コルト・エマーソン(ヒットを打つ能力)やラザロ・モンテス(長打力)のように、打者として突出したツールを持っているわけでもない。ローリーが大幅に成績を落としたり、負傷で長期離脱したりしない限り、フォードが近い将来に正捕手となる可能性は低く、くすぶっている間に価値を落とす可能性があったのだ。
一方、フォードはいいタイミングでナショナルズへ移籍できたと言える。かつてのトップ100有望株であるルイーズは、直近2年間のWAR(ベースボール・リファレンス版)がいずれも1を下回っており、もはや不動の正捕手ではない。つまり、スプリングトレーニングでアピールできれば、フォードが正捕手の座を奪取するチャンスは十分にある。
ナショナルズはジェームス・ウッド、ディラン・クルーズ、デイレン・ライル、CJ・エイブラムスといった若手を軸に打線を形成しようとしている(エイブラムスはトレードの噂もあるが)。フォードの加入は、若手が中心となる打線にさらなる勢いをもたらすことになりそうだ。
◆さらに深掘り
(コンテンツ編集担当:アンドリュー・サイモン)
MLB.comのマイク・ペトリエロが指摘しているように、今オフの移籍動向を見ていると、「なぜチームがその投手を獲得したのか」を評価する際に防御率を見るだけでは十分ではないことが分かる。たとえば、ブルージェイズは防御率4.55のディラン・シース、メッツは防御率4.79のデビン・ウィリアムスを獲得した。レッドソックスは防御率4.28のソニー・グレイを獲得し、新たにトレードで手に入れたヨハン・オビエドも今季の防御率は3.57だったものの、通算では4.24に過ぎず、トミー・ジョン手術で1年を棒に振る前のシーズン、2023年の防御率は4.31だった。そして、マリナーズが獲得したフェレアは今季の防御率が4.48、メジャー通算では142試合に登板して4.36だ。
当然、投手の評価は防御率を見るだけでは十分ではない。防御率に隠れているパフォーマンスを見ることが重要であり、「その選手をさらに成長させることができる」とチームが確信している場合もある。もちろん、フェレアの場合はFAになるまであと4年保有できるということもマリナーズにとって大きなプラス材料だ。では、マリナーズは有望株捕手のフォードを手放してまで獲得したフェレアに何を期待しているのだろうか。
・フェレアはFIP(3.03)、xFIP(3.09)、SIERA(2.85)と優れた数字を残し、スタットキャストによる予想防御率も3.61とまずまず。これらの様々なバージョンの「防御率」は方向性としてはすべて似たようなことを示している。それは、フェレアが今季、防御率よりも優れたパフォーマンスをしていたということだ。
・スタットキャストによると、今季のナショナルズは捕手のフレーミング指標がメジャー最低で、OAA(Outs Above Average:平均よりどれだけ多くアウトを奪ったかを表す守備指標)と守備得点もメジャーで2番目に悪かった。これはフェレアが守備陣から十分なサポートを得られなかったことを示唆している(ただし、マリナーズもOAAと守備得点で苦戦していた)。
・平均98マイル(約158キロ)近いシンカーを投げることができる左腕で、チェンジアップも平均88マイル(約142キロ)近いスピードが出る。両球種とも平均より大きく変化するのが特徴だ。
・今季のフェレアは3つの点で特に優れていた。1つ目は四球の少なさ(四球率はメジャーの上位5%)、2つ目はゴロの打球の多さ(ゴロ率は上位1%)、3つ目は長打性の打球を防ぐ能力(被バレル率は上位7%)である。
これらを総合的に考えると、マリナーズ側の視点から見れば、フォードを放出してフェレアを獲得するという動きはそれほど奇妙ではないように見える。ワールドシリーズ出場を目指すチームにとって、多少のリスクはあるものの、魅力的な選択肢だと言えるだろう。
◆知っておくべきデータ
(MLB.comリサーチチーム)
フェレアのチェンジアップはどれほど強力な武器なのか。今季、チェンジアップに対して100回以上のスイングがあった投手は126人いた。フェレアの空振り率は47%だったが、これを上回ったのはわずか4人だけ。その中にはロイヤルズのエース左腕コール・レイガンズ、ナ・リーグ新人王投票2位のケイド・ホートン、フェレアのチームメイトだったマッケンジー・ゴアらが含まれる。また、2年連続サイ・ヤング賞のタリック・スクーバルはフェレアのすぐ後ろにランクインした。
また、規定数以上のチェンジアップを投げた267人の投手の中で、フェレアは(球速とリリースポイントが近い投手と比較したときの)縦変化が27番目、横変化が8番目に大きかった。フェレアのほかに、縦方向にも横方向にも平均より3インチ(約7.6センチ)以上変化するチェンジアップを投げるのは、魔球「エアベンダー」を武器とするウィリアムスだけだった。
