【Catch the Moment -2024- #5】数学を「サボった」少年が歴史の1ページに
2025.1.20 18:02 Monday
一投、一打、そして一瞬の出来事が勝負を決める、それが野球の魅力の1つだろう。20年以上にわたってMLB公式フォトグラファーとして活躍する田口有史が、2024年シーズンに捉えた「最高の一瞬(Moment)」を紹介する。
ナイトゲーム明けのデーゲーム。両チームとも練習はない。そして、大谷翔平の「50-50」達成も本拠地のドジャー・スタジアムに戻ってからになりそうと、少し弛緩した雰囲気を感じながらも、いつものように試合前のフィールドの様子を確認しようと歩いていた。
そこで、メディアのフィールドへの出入り口付近にいる少年がボードを掲げているのを見つけた。そこには「I SKIPPED MATH TO WATCH HISTORY! OHTANI 50/50」とのメッセージが。そのときに自分は「残念だったなぁ。おそらく今日は出ない。でも、50盗塁目は決めてくれると感じているから、それだけでも歴史の一部の目撃者として、十分誇りに思えると思うよ」と、浅はかに考えていたことを覚えている。
そして試合が始まると、大谷は初回に50盗塁目。6回に49号ホームラン、そして7回には50号ホームランで「50-50」の歴史的快挙を達成。さらに9回、特大の51号3ランを、自身初となる3打席連発で放ち、終わってみれば6打数6安打10打点の大暴れだった。
50号ホームランの瞬間を撮ることができて、少し余裕のできた自分は、試合前にメッセージボードを掲げていた少年のことを思い出した。そして、51号ホームランを放ったあと、ダグアウト内にて笑顔でハイタッチをする大谷の後ろに、その少年とボードを写し込んだ。試合前に知ったようなふりをしていた自分を反省し、改めて、想像の斜め上の歴史的な日を送った大谷と、数学をサボるという大いなる決断をした少年に敬意を表して。
◆田口 有史(たぐち ゆきひと)
1973年静岡県生まれ、福島県育ち。高校卒業時にスポーツ写真家を志し1993年に渡米。MLBが2チームある街という理由でサンフランシスコ芸術大学へ編入。在学中からフリーランスとして活動を始め、現在は日本に居を構えつつも年間150日ほど渡米し、MLBを中心に様々なスポーツシーンを撮影している。フリーランスとしての撮影活動の傍らMLBおよびWBC公式フォトグラファーも務める。Instagram:@tagucci42