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「球界最強左腕」タイガース・スクーバルの獲得に必要な条件とは?
今季序盤、パイレーツがポール・スキーンズをトレードで放出するというアイディアについて、球界全体で多くの議論が交わされた。
保有期間が来季以降まだ4年も残っているにもかかわらず、球界最高の投手をトレードで放出するのは狂っていると考える人もいた。一方、スキーンズ放出によって得られる莫大な対価によって、低迷が続くパイレーツに活気がもたらされると考える人もいた。
スキーンズは依然としてパイレーツに在籍しており、近いうちにトレードされるという兆しもない。しかし、もし「球界で2番目に優れた投手」が獲得可能だとしたら、どうなるだろうか。
スキーンズを獲得するより、「球界で2番目に優れた投手」を獲得するほうが現実的だろう。
タリック・スクーバルはフリーエージェント(FA)まで残り1年となり、タイガースは頭を悩ませている。再建期を終え、2年連続で地区シリーズに進出するなど勢いのあるチームだが、スクーバルを放出すれば、2026年のタイガースにマイナスの影響を与えるのは間違いない。しかし、このエース左腕がFA市場で求める契約条件を考えると、スコット・ハリス編成本部長は、スクーバルをデトロイトに留めておくだけの金額を支払えるのか、それともスクーバルを放出して有望株を含む対価を獲得するほうが長期的に見て有益なのかをしっかり見極める必要がある。
アメリカン・リーグ某球団の幹部は「もし十分なオファーが届けば、タイガースはスクーバル放出を検討するだろう。実際に放出する勇気があるかどうかは分からないけれどね」と語っている。
11月20日に29歳の誕生日を迎えるスクーバルは、左屈筋腱の手術から復帰した2023年に飛躍の兆しを見せ、15先発で7勝3敗、防御率2.80を記録。翌2024年にはエースの地位を確立し、18勝4敗、防御率2.39の好成績を残して満票でア・リーグのサイ・ヤング賞に選出された。
支配的なピッチングは今季も続き、13勝6敗、防御率2.21を記録。投球イニング(195回1/3)と三振(241)はキャリアハイを更新した。こうした活躍により、ア・リーグでは1999~2000年のペドロ・マルティネス以来となる2年連続サイ・ヤング賞が有力視されている(ナショナル・リーグでは2018~19年にジェイコブ・デグロムが連続受賞)。
では、タイガースからスクーバルを獲得するには、どんな対価が必要になるのだろうか。近年のトレードから傾向を探ってみよう。
ナ・リーグ某球団の幹部は「このレベルの投手を短期契約で獲得できる機会はめったにない。タイガースが放出を決断すれば、トレード相手に困ることはないだろう」と語る。
最も類似した例と言えるのは、2024年2月にブルワーズがコービン・バーンズ(2021年ナ・リーグのサイ・ヤング賞投手)をオリオールズへ放出したトレードだろう。ブルワーズはFAまで残り1年となったバーンズを放出し、メジャー全体トップ100にランクインしていた2人の有望株(DL・ホールとジョーイ・オーティズ)とドラフト全体34位の指名権を獲得した。
3人の球団幹部がバーンズのトレードを有力な比較対象として挙げたが、この3人全員が「タイガースはスクーバル放出によって、より多くの対価を獲得できる」と考えている。
ナ・リーグ某球団の幹部は「トレードの対価の最低ラインは、ブルワーズがバーンズの対価として獲得したものよりも上になるだろう。どれくらい上になるかは誰にも分からない」とした。
一方、ア・リーグ某球団の幹部は「トップ100にランクインするような有望株が2~3人必要になるだろう。スクーバルはバーンズと比較してもレベルが違う投手だが、バーンズのトレードの対価は参考になると思う」と語った。
昨年、レッドソックスがホワイトソックスからギャレット・クローシェを獲得したとき、トレードの対価にはトップ100以内の有望株が2人(カイル・ティールとブレイデン・モンゴメリー)、球団内で上位の有望株が2人(チェイス・マイドロスとウィケルマン・ゴンザレス)が含まれていたが、トレード時点でクローシェの保有期間は2年残っていた。
ア・リーグ某球団の幹部は「クローシェは2年残っていたが、スクーバルの対価としては、あれくらいが妥当だと思う」との見解を示している。
近年では、FAまで残り1年となった3人のスター外野手もトレードによる移籍を経験している。ムーキー・ベッツ(2020年2月)、フアン・ソト(2023年12月)、そしてカイル・タッカー(2024年12月)だ。
ドジャースは年俸2700万ドル(約40億円)のベッツを獲得するために球団1位(アレックス・バーデューゴ)、3位(ジーター・ダウンズ)、28位(コナー・ウォン)の有望株を放出した。トレードから5カ月後、12年3億6500万ドル(約548億円)の大型契約を結び、ベッツは現在もドジャースで活躍を続けている。
ア・リーグ某球団の幹部は「ベッツの対価は期待外れだった。ただし、トレード前から年俸が高騰していたため、獲得に動けるチームが限られていたことを考慮する必要はある」と評価した。
ソトは2022年のトレード期限にナショナルズからパドレスへトレードされていたが、FAまで残り1年となったタイミングで再びトレードされ、ヤンキースへ移籍した。
ヤンキースはソトとトレント・グリシャムを獲得するために、捕手のカイル・ヒガシオカ、マイケル・キングとジョニー・ブリトーの両右腕、さらにトップ100有望株のドリュー・ソープと球団13位の有望株だったランディ・バスケスを放出した。ソトはニューヨークで見事な活躍を見せ、当時のキャリアハイとなる41本塁打を放ってOPS.989を記録。ア・リーグMVP投票で3位にランクインし、15年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。
しかし、ソトのヤンキース在籍はわずか1年で終了した。オールスター選出4度のソトは、シーズン終了後にメッツと15年7億6500万ドル(約1148億円)の超大型契約を締結。同じニューヨークの球団へ移籍し、史上最高額の契約を手にした。
カブスはFAまで残り1年となったタッカーを獲得するために、内野手のイサーク・パレイデス、右腕のヘイデン・ウェスネスキー、そして全体73位の有望株だったキャム・スミスをアストロズへ放出した。これはFAまで残り1年となったスター選手が関与した最新のトレードだ。
タッカーはカブスで136試合に出場して22本塁打、73打点、OPS.841を記録し、4年連続でオールスター選出。ワイルドカードシリーズでパドレスを撃破したが、地区シリーズでは同地区のブルワーズに敗れた。タッカーはポストシーズン8試合で打率.259、1本塁打、1打点、OPS.745にとどまった。
タッカーは今オフのFA市場で最高の選手と目されているが、球界全体の共通認識となっているのは、カブスはタッカーが求めるような契約を結ぶ球団ではないということだ。つまり、カブスはタッカー獲得のために大きな対価を支払ったにもかかわらず、タッカーがカブスに在籍するは1年限りとなるだろう。
スクーバル獲得を狙う球団の幹部たちが自問自答しなければならない質問はシンプルだ。たとえスクーバルほどの才能がある選手であっても、1年でチームを去る可能性が高い選手を獲得するために莫大な対価を支払う必要はあるのか?
ナ・リーグ某球団の幹部は「トレードは各球団のメリットに基づいて評価されるべきだが、短期契約の選手を獲得することがポストシーズン進出につながるのであれば、トレードを実行する価値は間違いなくある。優勝したという記録は永遠に残るものだからね」と語る。
ア・リーグ某球団の幹部は「今、勝ちたいチームにとって(今オフ中に)スクーバル獲得に動くのは理にかなっていると思う。獲得に必要な対価はトレード期限ほど高くはならないからね」とした。
過去のトレードを参考にしつつ、今オフ、スクーバルの獲得に動く可能性があるチームを考えてみよう。
今季ポストシーズン進出を逃したことを考えると、メッツは間違いなくスクーバル争奪戦の有力候補だ。デービッド・スターンズ編成本部長はFA市場で投手と大型契約を結ぶことに消極的だが、スティーブ・コーエン・オーナーは今オフ、積極的に動くつもりだ。スクーバル獲得を超えるインパクトを持つ動きはない。
メッツにはスクーバルの対価となり得る若手投手が多くいる。たとえば、ブランドン・スプロート、ジョナ・トンといった選手たちだ。また、カーソン・ベンジやジェット・ウィリアムスといった若手野手もタイガースの関心を引く可能性がある。この4選手はいずれも有望株ランキングのトップ100にランクインしており、このうち3人(もしくは4人全員)を放出するのはメッツにとって大きな負担となるが、メッツにはスクーバルと長期契約を結ぶだけの資金力があることを忘れてはならない。
レッドソックスは昨オフ、クローシェを獲得するという大きな動きを見せたが、もし2026年シーズンにクローシェとスクーバルが同じローテーションに並べば、他球団にとって大きな脅威となる。トップ100の有望株投手が2人(ペイトン・トーリーとカイソン・ウィザースプーン)、トップ100の有望株野手も2人(フランクリン・アリアスとジョスティンソン・ガルシア)いるため、スクーバルを獲得するための対価を提供することは可能だ。
ほかには、強豪3チーム(ドジャース、フィリーズ、パドレス)も除外できない。これらの球団のフロントオフィスには大型トレードを成立させてきた歴史があるからだ。
ドジャースがスクーバルを獲得するためには、球団1位&全体13位の有望株であるホスエ・デポーラを手放す必要があるかもしれない。ドジャースは有望株ランキングのトップ100に7選手を送り込んでいるほか、安価で保有できる佐々木朗希もいるため、アンドリュー・フリードマン編成本部長がさらなる投手補強を決断すれば、トレードの駒に使える若手有望株は豊富に揃っている。
フィリーズのデーブ・ドンブロウスキー編成本部長は有望株アンドリュー・ペインターを若き日のジャスティン・バーランダーに匹敵する存在と評価し、トレードでの放出を拒んできた。しかし、フィリーズのロースターは高齢化が進んでおり、ワールドシリーズ制覇を狙うための時間がなくなりつつある中、2026年は極めて重要なシーズンとなる。スクーバル獲得に乗り出す可能性もあり、ペインターのほかにもタイガースの関心を得られそうなトップ100有望株が2人(エイダン・ミラーとジャスティン・クロフォード)いる。
今年のトレード期限に慌ただしい動きを見せたパドレスは、トップ100にランクインしている有望株が2人だけ(77位のイーサン・サラスと95位のクルーズ・スクールクラフト)になってしまった。しかし、A・J・プレラー編成本部長は最もクリエイティブな球団幹部の1人だ。プレラー編成本部長が何かを決断したとき、決して侮れない存在となる。マイケル・キングとディラン・シースがFAになることを考えると、先発ローテーションの補強は必須であり、スクーバル獲得はその解決策の1つとなるだろう。
タイガースがスクーバル放出を決断すれば、上記のチーム以外にも多くのチームが獲得に乗り出すはずだ。しかし、タイガースも再建期を終えて勝負モードに突入しており、タイガースからスクーバルを獲得するためには、将来に役立つだけでなく、2026年にタイガースが3年連続のポストシーズン進出を成し遂げるのを手助けするような選手を対価に含めることが必要になる。
ア・リーグ某球団の幹部は「スクーバル獲得のためには、トレードの対価にメジャーリーガーを含める必要があるだろう。そのトレードによってタイガースがレベルアップできるということを示さなければならない」と語り、有望株だけのパッケージではトレードを成立させることは難しいとの見解を示した。
2025.10.22 13:37 Wednesday
21世紀初のワールドシリーズ連覇の鍵を握るドジャースの「エース4本柱」
メジャーリーグの先発ローテーションにエース格の投手が4人揃うのは非常に珍しい。
ブレイク・スネル、山本由伸、タイラー・グラスナウ、そして大谷翔平。今年のポストシーズン、圧倒的な投手力によって勝ち上がってきたドジャースにとって、先発ローテーションは球団史上でも屈指の充実度だ。
昨年、ドジャースは先発の駒が不足しているにもかかわらず、ワールドシリーズ制覇を成し遂げた。今年は4人の先発投手が21世紀初のワールドシリーズ連覇を目指すチームの原動力となっている。
アンドリュー・フリードマン編成本部長はリーグ優勝を決めたあと、「10月に入る前から、先発投手がこのチームの強みであることは分かっていた。しかし、彼らの活躍は予想以上だった。彼らが4試合に投げ、互いにバトンをつなぐ姿を見るのは、信じられないほど素晴らしい体験だった」と語り、4人の先発投手の活躍ぶりを称賛した。
21日(日本時間22日)、デーブ・ロバーツ監督は敵地ロジャースセンターで行われるワールドシリーズ第1戦にスネル、第2戦に山本を先発させることを発表した。第3戦以降の先発投手はまだ発表されていないが、リーグ優勝決定シリーズと同じローテーションになる可能性が高い。つまり、第3戦にグラスナウ、第4戦に大谷が先発することになるだろう。
これにより、スネルは中4日で第5戦に先発することが可能。グラスナウも中4日で第7戦に先発できる。また、山本は中5日で第6戦に先発することになるだろう。大谷が先発するのは1試合だけになるが、シリーズが長引いた場合、リリーフで登板する可能性がある。
この先発ローテーションはリーグ優勝決定シリーズで見事に機能。4人の先発投手が1試合ずつ投げ、メジャー最高勝率のブルワーズをスイープした。
【第1戦】スネルが8イニングを最少打者数の24人で無失点に抑え、わずか1安打、10三振の快投
【第2戦】山本が先頭打者アーチを浴びたものの、それ以降は得点を与えず、メジャー初完投を達成
【第3戦】グラスナウが5回2/3を投げ、8三振、1失点の好投
【第4戦】大谷が6回0/3を投げ、10三振、無失点の好投(3本塁打を放ち、史上最高の個人パフォーマンスとなったことは言うまでもない)
クローザーの佐々木朗希はリーグ優勝決定シリーズ第3戦の試合後、記者会見で「完投してくれないかなと思って見ています」と先発陣について言及した。
この先発陣がワールドシリーズでも同様のパフォーマンスを見せる可能性がある。対戦チームのブルージェイズにとっては厳しい試練となるはずだ。
新人捕手のドルトン・ラッシングは「各投手が自分の武器を持ち、自分の投球スタイルを持っている。それぞれに独自の個性がある。それが各投手を優れた選手にしているし、それによってお互い学び合うこともできる。エース級が4人揃っていることで新たな基準が打ち立てられたんだ」と語っている。
ここでは今年のポストシーズンにおける各先発投手の武器となっている球種を見ていこう。
◆スネルのチェンジアップ
スネルはレギュラーシーズン中、フォーシームの割合が最も多かったが、ポストシーズンではチェンジアップの割合を増やしている。チェンジアップに対し、相手打者は22打数2安打(打率.091)と苦戦しており、58度のスイングで38度の空振りを喫している(65.5%)。
リーグ優勝決定シリーズ第1戦の試合後、スネルは「チームの指示に従ってピッチングを組み立てている。相手打者が特定の球種に対してかなり積極的だと感じたし、実際にその通りだった」と話した。
◆山本のスプリット
山本は地区シリーズ第3戦でフィリーズに対して不甲斐ない投球(4回0/3を投げて3失点)を見せたあと、髪を暗くしてリセットを図った。しかし、敵地ミルウォーキーで完投した山本にとって、真の決定打となったのはスプリットを巧みに操ったことだ。山本はブルワーズ打線からスプリットで8つの空振りと3つの見逃しストライクを奪った。
ブルワーズのパット・マーフィー監督は「彼のスプリットは速球のように見える。同じトンネルを通ってくるんだ。全く同じに見える。完璧な投球フォームだし、失投もない。速球のように見えるボールが突然落ちていく。その一方で、速球はどんどん伸びていく」と脱帽していた。
◆グラスナウのスライダー
グラスナウのスライダーは制球面でやや不安定さがあるものの、上手く機能しているときには非常に厄介なボールとなる。今年のポストシーズンでは11打数1安打(打率.091)と相手打者を圧倒しており、20度のスイングで10度の空振りを奪っている(50%)。シンカーとの相性も抜群で、制球を乱したときは、それを修正するためにシンカーを使うケースが多い。
リーグ優勝決定シリーズ第3戦の試合後、グラスナウは「かなりシンカーに頼った。制御不能になりかけたけれど、シンカーを1球投げることによって、ピッチングを修正できるんだ」と語った。
◆大谷のスプリット
レギュラーシーズン中、大谷はわずか4.6%しかスプリットを使わなかった。ポストシーズンでも割合が突出して多いわけではないが、その効果は絶大だ。相手打者は大谷のスプリットに対して10度スイングしたが、バットに当たったのは1度だけ。スプリットを武器として使うことで投球の幅が大きく広がっている。
リーグ優勝決定シリーズ第4戦、大谷が投打で歴史的なパフォーマンスを見せた試合でもそうだった。マーク・プライアー投手コーチが話していたように、大谷はスプリットの感覚をつかみさえすれば、「何でもやりたいことができる」のだ。
2025.10.22 11:26 Wednesday
スプリンガーの逆転3ランを生んだ「決断」 両チームの思惑とは
「決断」は試合、シリーズ、そしてシーズンの成否を分ける。アメリカン・リーグ優勝決定シリーズ(ALCS)第5戦ではブルージェイズのジョン・シュナイダー監督がマリナーズ打線の中軸に対してブレンドン・リトルを起用。しかし、この継投は失敗に終わり、マリナーズはカル・ローリーとエウヘニオ・スアレスが本塁打を放ち、物語のような瞬間を演出した。
20日(日本時間21日)に行われた第7戦はブルージェイズが4-3で勝利したが、「勝てばワールドシリーズ進出、負ければ敗退」という一戦で七回のマリナーズの「決断」が試合の流れを一変させた。マリナーズのダン・ウィルソン監督はブルージェイズの強打者ジョージ・スプリンガーに対してエデュアルド・バザードを起用。しかし、スプリンガーが逆転3ランを放ってロジャースセンターを大熱狂させ、ブルージェイズは1993年以来32年ぶりとなるワールドシリーズ進出を決めた。
では、第7戦の勝敗を分けた「決断」を詳しく見ていこう。
◆状況
マリナーズは球団史上初のワールドシリーズ進出まであと9アウトに迫っていた。生え抜きのスター選手であるフリオ・ロドリゲスとローリーが本塁打を放ち、3-1とリード。ジョージ・カービーとブライアン・ウーの2人が六回までブルージェイズ打線を1点に抑えていた。
ウィルソン監督は五回から登板していたウーを七回も続投させることを選択。ブルージェイズは下位打線からの攻撃だったが、ブルージェイズの7~9番打者はALCSの83打席で打率.284、4本塁打、4二塁打、12打点、OPS.838という好成績を残していた。
先頭のアディソン・バージャーが5球で四球を選んで出塁。アイザイア・カイナー=ファレファは真ん中のスイーパーを弾き返し、センターへのヒットを放った。
このカイナー=ファレファのヒットについて、ウィルソン監督は「ゴロを打たせることを狙い、その通りになったが、野手の間に飛んでしまった」と語った。
マリナーズのピート・ウッドワース投手コーチがマウンドを訪れ、一息ついたあと、ウーは9番打者のアンドレス・ヒメネスと対戦。送りバントの可能性が高いと予想され、実際にヒメネスはバントを決めて1死二、三塁となった。
ここでブルージェイズ打線は上位に回り、リードオフマンのスプリンガーが打席に入った。
◆決断
スプリンガーに対し、ウィルソン監督はバザードを起用した。レギュラーシーズンでは78回2/3を投げて防御率2.52をマーク。ALCSでも5イニングでわずか1失点と安定したピッチングを見せていた。
ウィルソン監督は「バザードは1年を通して安定した働きを続けてきた。とても安定感があり、1年を通して素晴らしい仕事をしてくれた。特にこのシリーズでは、彼のピッチングを見て、本当に安心感を覚えた。だから、彼を起用したんだ」とバザードを起用した理由を説明した。
シーズンで最も重要な試合の最も重要な場面だった。しかし、ウィルソン監督は今季チームで最も優れた投手だったウーを続投させなかった。
また、ウィルソン監督はチームで最高のリリーフ投手2人、セットアッパーのマット・ブラッシュとクローザーのアンドレス・ムニョスも起用しなかった。
「ウーはいいピッチングをしていたが、そろそろ代え時だと思った。勝ちパターンの投手を起用しようと思い、あのような決断になったんだ」とウィルソン監督は語った。
ウーは「僕たちは常にマウンドに立ち続けたいと思っている。でも残念ながら、あの場面は2度目のマウンド訪問だったから、投手交代以外の選択肢はなかったんだ」と付け加えた。
注目すべきは、スプリンガーとムニョスが今年のレギュラーシーズンとポストシーズンで1度も対戦していなかったことだろう。
ムニョスは「全員が準備万端だった。でも、監督やコーチはあの場面ではあれがベストの選択だと考えた。シーズンを通してずっとそうだったから、僕たちはみんなあの決断を支持しているよ。しかし、今日は上手くいかなかった。判断が間違っていたわけではない。今日はそういう日ではなかったということ。それだけさ」とウィルソン監督の継投に理解を示した。
スプリンガーはキャリア終盤に差し掛かっているかもしれないが、まだ終わりではない。36歳のスラッガーはレギュラーシーズンで32本塁打を放ち、ポストシーズンの経験も豊富だ。それはマリナーズファンもよく知っているだろう。スプリンガーはポストシーズンの通算78試合で打率.264、23本塁打、47打点、OPS.883を記録している。
スプリンガーとの勝負を避け、次の左打者ネイサン・ルーカスの打席で併殺打を狙うという考えはあったのだろうか。
「難しい判断だった」とウィルソン監督。「本当に難しい判断だ。逆転のランナーを一塁に置きたくなかった。それに、もしルークスから併殺打を奪えなかった場合、ブラディミール・ゲレーロJr.に回ってしまう。そうしたことも考えて、スプリンガーと勝負することにしたんだ」と説明した。
スプリンガーは第5戦で右膝に死球を受け、途中交代を強いられた。出場が危ぶまれていた第6戦と第7戦にスタメン出場したものの、本調子ではなく、シリーズを決定づける本塁打を放つ前の8打席で無安打(2四球)に終わっていた。
シュナイダー監督は相手の策への対応を考えていた。マリナーズがスプリンガーとの勝負を避け、ルーカスに対して左腕ゲーブ・スパイアーをぶつけてくる可能性があると予想した。
その場合、シュナイダー監督はルーカスに代打を送る必要があっただろう。
「ジョージを敬遠するんじゃないかと思っていた。相手がどちらの戦術を取るか、私は分からなかったんだ。でも、最終的にジョージと勝負してくれたのは、我々にとってよかった」とシュナイダー監督。「重要な打席でジョージに期待しないなんてことはないよ」とスプリンガーへの信頼は変わらなかった。
◆結果
バザードはスプリンガーに対して2球を投じた。1球目は内角に外れるシンカー。2球目はストライクゾーンへのシンカーだった。スプリンガーによると、三塁走者のバージャーを生還させることだけを考えていたという。
しかし、スプリンガーはひと振りで試合の状況を一変させた。
バザードは「シンカーをもう少し内寄りに投げるつもりだったけれど、少しだけ甘く入ってしまった。そこを仕留められたんだ。最高のシンカーを投げたつもりだし、昨日の試合では同じようなシンカーで打ち取ることができた。昨日は内野ゴロ、今日はホームランになってしまった」と振り返った。
ロジャースセンターは大歓声に包まれた。マリナーズは奈落の底に突き落とされた。ちなみに、マリナーズの守護神ムニョスは1点ビハインドの八回に登板した。
ウィルソン監督は「決断を下すとき、生きるか死ぬかの決断を迫られることもある。今季のバザードのピッチングを見て、我々は彼なら抑えてくれると思って送り出した。ただ、それが上手くいかなかっただけだ」と語り、自身の決断を後悔するような素振りは見せなかった。
2025.10.22 10:05 Wednesday
ヤンキースの元主将、ドン・マティングリーが自身初のワールドシリーズへ
長い年月を経て、ついにその瞬間が訪れた。
選手、コーチ、監督として40シーズン以上、通算5231試合に関わってきたドン・マティングリーが自身初となるワールドシリーズに進出した。
現在ブルージェイズのベンチコーチを務めるマティングリーは、リーグ優勝が決まってから約12時間後の21日(日本時間22日)、MLB.comの取材に応じ、「ワールドシリーズまで辿り着くことができて最高の気分だ。いいプレーができるような気がしているよ」と語った。
「(ヤンキース時代の同僚である)ポール・オニールは、ワールドシリーズまで辿り着いたら、そこからが楽しいんだと言っていた。そこに辿り着くまでの戦いは本当に緊張感がある。だから、もちろん(ワールドシリーズを)楽しむよ。本当に楽しみだ」
一晩中、お祝いが続いた翌日だったため、マティングリーの声は少し疲れているように聞こえた。しかし、長きにわたって、時には残酷、時には皮肉な形で逃し続けてきたワールドシリーズの舞台にようやく辿り着いたという充実感も反映していた。
ヤンキースの元主将であるマティングリーは、ヤンキースの歴史上、ワールドシリーズ出場経験がない最高の選手だった。1979年、ヤンキースが22度目のワールドシリーズ制覇を成し遂げた翌年にドラフト指名を受け、1982年、ヤンキースがワールドシリーズでドジャースに敗れた翌年にメジャーデビュー。ヤンキース一筋のキャリアを過ごし、1995年に引退したが、5年間で4度のワールドシリーズ制覇を成し遂げる黄金期がスタートしたのは、その翌年だった。マティングリーがヤンキースでプレーした14年間でポストシーズンに進出したのは1995年の1度だけ。地区シリーズで敗退し、マティングリーは選手としてワールドシリーズの舞台に立つことはできなかった。
2004年、マティングリーはコーチとしてヤンキースに復帰。ところが、その年のヤンキースはリーグ優勝決定シリーズでレッドソックスを相手に初戦から3連勝したにもかかわらず、そこから4連敗を喫し、マティングリーはまたもワールドシリーズに進めなかった。第7戦に敗れ、敗退が決まったあと、ジョー・トーレ監督が真っ先に口にしたのは、マティングリーをワールドシリーズの舞台に連れていけなかったことへの失望だった。
しかし、こうした経験があったからこそ、初の大舞台への道のりは、これほどまでに魔法のようだった。ここに至るまでのブルージェイズの道のりは、マティングリー自身の勝利であり、苦悩だったのだ。
まず、ブルージェイズはヤンキースを僅差で破り、地区優勝を成し遂げた。地区シリーズでは再びヤンキースと対戦し、3勝1敗で勝利。マティングリーが現在でも尊敬されている場所、ブロンクスでシリーズ突破を決めた。
その後、マリナーズとのリーグ優勝決定シリーズに突入。マリナーズはマティングリーの現役ラストイヤー、1995年の地区シリーズで第5戦までもつれた熱戦の末にヤンキースを倒したチームだ。ブルージェイズは4勝3敗で勝利し、32年ぶりのワールドシリーズ進出を決めた。
そして、ワールドシリーズではドジャースと対戦する。マティングリーはかつてドジャースで10年近くコーチと監督を務め、デーブ・ロバーツと交代した。ロバーツはマティングリーがヤンキースでコーチを務めていた2004年に0勝3敗からの大逆転劇のきっかけとなる伝説の盗塁を決めた人物だ。
「言われるまで気付かなかったよ」とマティングリーは笑ったが、こうした奇跡的なつながりを経て、ついに自身初の大舞台に辿り着いた。
マティングリーとともに7年間を過ごしたトーレは、マティングリーの喜びをよく理解している。トーレ自身も1996年に初のワールドシリーズを経験するまで、4284試合も待たなければならなかったからだ。
トーレは「まるで他人がホットファッジサンデーを食べているのを見ているみたいだ、といつも言っていた。彼がこれを味わえるのは本当に嬉しいよ。ドニー(=マティングリーの愛称)は球界に多大なる貢献をしてきた。コーチとして、彼は常に素晴らしい指導者であり、それが(今季のブルージェイズにも)よく表れている」と語った。
マティングリーにとって、今年の10月はあらゆる種類の「幽霊」を追い払うチャンスとなるが、その中でも最もよかったのは、ワールドシリーズ初出場までの道のりを家族と分かち合うことができたことだろう。
1995年、マティングリーが現役引退を決断したのは、家族への愛を優先したからだった。背中の負傷により、かつて堂々としていた左打席からのスイングで発揮されるパワーが失われていたのは確かだが、家族が待つ自宅に戻りたいという気持ちが、チャンピオンリングを獲得したい、アメリカ野球殿堂入りのチャンスをつかみたい、という思いを上回ったのだ。
マティングリーは2022年、MLBネットワークが制作した自身の人生に関するドキュメンタリー番組の中で、最初の妻キムとの間に生まれた3人の息子、プレストン、テイラー、ジョーダンについて「もしあと3~4年プレーしていたら、ワールドシリーズ優勝メンバーの一員になれていたかもしれない。でも息子たちと引き換えにはできない。父親のいない環境で育ってほしくなかったんだ。難しい決断だったけれどね」と語っている。
3人の息子たちはみんな成長し、遠くから見守りながらもマティングリーが勝ち進むたびにテキストメッセージを送って祝福した。しかし、2人目の妻ローリとの間に生まれた10歳の息子、ルーイとは違う形でこの道のりを共有している。64歳のマティングリーにとって、ルーイが自身の目でこの道のりを見てくれたことが何より嬉しいのだ。
「本当に素晴らしいことだ。彼は負けた試合を本当に辛く受け止めてくれた。ヤンキース戦で逆転負けした試合だったと思う。彼は落ち込み、傷ついていた。でも、これは人生と同じなんだと教えるいい機会になった。何かを強く求めて、必死に戦っても、手に入らないことがある。辛いけれど、また立ち上がって、もう1度頑張らないといけない」とマティングリーは愛する息子について語った。
今年のリーグ優勝決定シリーズでは、ブルージェイズは第3戦と第4戦に勝利し、シリーズを2勝2敗のタイに戻したものの、重要な第5戦に敗れた。
「試合が終わって彼のところに行くと、彼は『第6戦と第7戦があるって知ってる?』と言ったんだ」とマティングリーは笑う。
小学生の親や小学校の先生なら、マティングリーが何を言いたいのかわかるだろう。
「彼は私に第6戦と第7戦があることを教えてくれたんだ。『第7戦まで戦って勝とう!まだ第6戦と第7戦があるよ、パパ!』とね」と回想した。
「第6戦に勝ったあと、私は家族が待つ部屋に歩いていった。彼は1人で端に座っていたよ。私の姿を見つけて、すぐに駆け寄ってきた。彼がどれだけ試合に集中してくれているか、家族がどれだけ試合を大切にしてくれているか、改めて実感したんだ」
マティングリーは球界で最も人気があり、最も愛されている人物の1人だ。だからこそ、ほとんどすべての人々がマティングリーを応援しているように見える。
ブルージェイズのジョン・シュナイダー監督は子供のころ、壁にマティングリーのポスターを貼っていたという。
シュナイダー監督は「ニュージャージーで育った私にとって、ドニーと一緒にワールドシリーズに出場できるのはとても嬉しい」と語った。
マティングリーはブルージェイズの選手たちが適切なタイミングで一致団結し、チームワークを築き、最高の舞台まで辿り着く姿を見て楽しんでいる。
「彼らはとにかく楽しいグループなんだ。映画の『サンドロット』を見ているような感覚だね。真剣にプレーしているけれど、楽しんでやっているのも伝わってくる。それを数値化することはできないけれど、全員が一致団結すると、いつもとは違うエネルギーが生まれるんだ。そういうものだよ。実際にやってみれば、体験できると思う」
24日(同25日)から始まるワールドシリーズではドジャースと対戦する。マティングリーにとって、野球人生における「最後の悪魔」を払いのけるチャンスとなるが、マティングリー自身はそのようには考えたくないようだ。
「いい関係のままロサンゼルスを去ることができたから、『あそこで過ごした時間は楽しかった』という気持ち以外はない。そういう場所で戦えるのは嬉しいね」とマティングリー。自身初の大舞台がいよいよ幕を開ける。
2025.10.22 08:48 Wednesday












